甘香、幻影を払う

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「……百合」  百合の無表情が、はっきりと分かるくらい歪む。  百合が思い浮かべているのは、最終ゲーム終了後の蓮の姿なのだろう。  記憶を消されて椿に操られていたとはいえ、死の間際まで徹底的に蓮を追い詰めたのは、他ならぬ百合だ。 「だから、蓮には、強くなってもらわなくちゃいけないの。  ……私なんて、軽く倒せるくらいに」  百合は小さく息をつくと表情をかき消した。  それだけでスッと、周囲の空気が冷える。 「本気で来い、蓮」  恋人の顔から師の顔になった百合を見て、蓮もこれ以上言葉はいらないと悟ったのだろう。  両手に握ったサバイバルナイフを構える。  右手に順手、左手に逆手。  足は肩幅に開いた自然体。  手にしている物がサバイバルナイフと短刀という違いはあれども、まるで鏡に映したかのように同じ形で二人は構える。
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