甘香、幻影を払う

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 蓮だって、だてに『漆黒の騎士(ダーク・ナイト)』をしていたわけではないのだ。  そもそも蓮がそんなに弱い駒(ピース)であったならば、今の采上財閥はなかった。  没落した采上をたった十年でここまで復興させた功は、『Battle Piece』で暗躍していた蓮にあるのだから。  だから、稔には分からない。  蓮の強さを知っているからこそ、蓮が負ける理由を理解できない。 「……まぁ、惚れた弱み、というのもあるのでしょうが」  そんな主の内心も理解している吏沙は、視線を稔に移しながら口を開いた。 「最大の要因は、蓮さんが頼りとする技と、心理的なブレーキでしょうか」 「ん?」 「気付いていらっしゃいましたか?  百合さんの決め技は、急所への刺突なんです。  小柄な体とスピードを生かして敵の懐に入り、刃物でひとつき」  現に今も、百合は隙あらば蓮の懐に入り込もうとしている。  蓮もそのパターンを分かっているから、そうやすやすと攻撃圏内に踏み込ませるような真似はしない。 「対する蓮さんの決め技は、すれ違いざまに首筋を切り裂く、斬撃。  蓮さんの体格上、相手の懐に入るよりも、その方が楽なのでしょう。  ゲームにおいては、攻撃型(アタッカー)は蓮さんしかいませんでしたから。  その方が次の攻撃に移りやすいというのも、あったでしょうし」
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