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たとえばこんな話。
あるドライブの時に、ブオンブオンと爆音をたてて僕たちの車を追い越す車がいて、妻は冷たい眼差しでこう言った。
「何なのかしら。トイレかしらね?」
僕がその発想に苦笑してそうなんじゃないと言うと、彼女はつらっと「事故ってモレてしまえウ◯コ野郎が」と言った。
と、いうエピソードを話した後、しばらく社内でトイレに急ぐ社員がいると「お、大丈夫かウ◯コ野郎」と声をかけるのが流行った。
その話に妻は憤慨してみせたけれど、今では自分がどんな風に話されているかも気にならないらしい。
次々飛び出す名言に、僕のスピーチネタは尽きることはない。妻の話しかないのかとは誰も言わないあたりがこの会社のすごいところだ。
妻のエピソードは、主に爆走する車への彼女の暴言なのだが、彼女はやたらと車高を低くしているやつや音をうるさくしているやつにも手厳しい。
おそらく、僕の前につき合った男がそういう車の持ち主で、彼女曰く「意識が置いていかれるスピードを出す」男だったせいだろう。降りることのできない高速車で、あちこち連れ回されて怖い思いを沢山したらしい。
僕と知り合ってしばらくは、車に乗ろうとはしなかった彼女の傷つきを、僕は今も時々目撃する。
僕はそんな暴力はふるわないよ。
いつか彼女に言った時、彼女は目を丸くして「当然じゃないの」と頷いたけれど。
いつか、そんなうるさいやつらも気にならないくらいの楽しい気持ちでいっぱいにしてあげたいと僕は思うのだった。
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