ユウ

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春 北海道の春は遅く短い。 雪がまだ時々ふるし、高く積まれた雪山は4月を過ぎてようやく消え始める。 「コーヒーとカフェオレとポタージュ、どれがいいですか?」 ぼんやりとソファに座って、愛犬を抱いて雪が少し減った庭を眺めていると、朝食の支度をしている妻が朗らかに言う。 手にはすでにドリップポットを持っており、キッチンにはコーヒーミルが出されているのだけれど、彼女は一応毎回聞いてくれる。 「ポタージュはあるの?」 聞くと、冷凍庫から出したにんじんポタージュが凍ったものを自慢げに見せて「ございます」と答える。 じゃあポタージュ、と答えると「承知しました」と答え、彼女はテキパキとそれを解凍して鍋に移して牛乳を加えながら温めてカップによそうという作業をこなし、にっこりしてごはんですよーと言う。それが休日の朝。 僕の妻は概ねのんびりしていて、はっきり言ってしまうと不器用な方だけれど、料理に関しては別だ。 色々きちんとしていて、たまに手伝おうとすると「アラおやめになって、それは今ではないのです!」と何かと入れたがる僕を諌めつつ段取りを崩すことなく料理をやってのける(そして何故かキッチンに立つ時だけはものすごく丁寧な言葉遣いになる)。 食事が済むと買い出しメモを作る。 買い出しが済むと彼女は途端にオフになり、寝言を言いながらソファで犬と場所取り争いをしつつ眠る(この子は本当によく眠る)。 炊飯器のスイッチを入れる時間まで、彼女はまったく起きない。頬をつねると叩かれるけれど起きない。この情熱! 「今週は何が食べたいですか?」 食後、節約と食材を使い切ることに情熱を燃やす彼女が結局淹れたコーヒーを沢山の牛乳で薄めながら聞く。 餃子とかハンバーグとかエビチリとか、好き勝手に言う僕の希望をとりあえずメモして、広告とにらめっこしながら彼女は買い物リストを作ってゆく。 このちいさな身体は食べ物への愛で満ちているのだな、と思いながら僕はソファに移ってコーヒーをすする。 彼女は胃が弱いけれど深煎りでしかも濃いコーヒーを好む。結局沢山の牛乳で割ってしまうのに。 メモができましたーと朗らかに言い、彼女はテキパキと片付ける。 「行きましょ」 ソファまで寄ってきて僕を誘う彼女の手を取りながら、今日は僕も昼寝をしまくろうと決意する。 なにしろ春の日曜日なんだから。
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