0人が本棚に入れています
本棚に追加
*****
買い出しを済ませると、夫は私を昼寝に誘ってくれた。
夫はおどろくべき情熱で眠ることを愛しており、仕事から帰ってごはん食べて、ふと見たらソファあるいはベッドで眠り込んでいる(そして何をどうしてもさっぱり起きない)。
買い出しをしたらまず片付けて、今週の仕込みをしたりお米をといで今日の晩ごはんの準備をしたりするのが主婦の(と私は思っている)仕事なのだということが彼にはイマイチ伝わらない。自由なのだ。休日の彼はとにかく自由なのだ。
私は若年性糖尿病なので、お昼食べて動いた後は血糖値をはかってしかるべきおやつを食べねばならないのだけど、彼にはそれもピンとこないみたい。困っちゃう。
結婚する時に色々制限されることを伝え、いろんな不安を訴えた私に、彼は言った。
「不安を不安がってちゃ動けないよ。まずやってみようよ。ダメならそれから考えよう」
そりゃあそうだ、とその当然のことじゃないか、という様子の言い方に妙に納得して、私はこの大冒険の旅に出ることにしてしまったのだ。いや、そのことに後悔はみじんも(たぶん)ないのだけれど。
「先にお米といだりしてもよろしいかしら?もう2時だもの。やることはやってしまわなければいけないと思いますです」
言葉を選びながらそう言うと、彼はそうだね!と手をたたき、今日の献立を尋ねながら私の腰を抱き寄せる。
スキンシップが大好きなこの夫の、この力強い腕はだいすきなのだけれど、お願いだから私にお米をとがせてそして出汁を仕込ませてぇぇぇ!と思いながら、でもとりあえず今日はお肉を焼きます、と彼の背中を抱きながら答える。
本当は、休日こそ手の込んだものを作って食べてほしいと思うのだけれど、休日の夫はとにかく一緒に眠りたがる。
生姜焼きにしてよ、と無邪気に言う彼の背中をさすりながら、私は主婦の計画を見事に崩す彼をどうにもいとおしく思ってしまう。
今日はきっと晩ごはんは遅い時間になるだろう。
お弁当も簡単なものにしないといけないかも。あーあ。
でも仕方ない。春の休日だもの。よく眠れてよく遊べる、それが私たちのすきな春なのだから。
最初のコメントを投稿しよう!