ユウ

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***** 僕たちの住む街は、図書館と市役所がくっついていて、建物はそこそこ新しく小綺麗なのだが、駐車場がおそろしく狭いという欠点がある。 僕は妻を図書館に送って、彼女が本を選ぶ間に近くのスーパーで時間をつぶす。 今週、何を食べたいか考えておくようにと指示を受け、価格リサーチを兼ねてスーパーをぷらつきながら電話が鳴るのを待っている。 あぁ、空豆の季節なのだなぁと思いながらカップ麺売り場とお菓子売り場に行き、妻にねだるお駄賃を選ぶ。 新製品のポテチが色々出ている。 カップ麺もなんだか得体の知れないものー調査すべきものーがいくつも出ているではないか。困る。 新製品を持って眺めていると、「おー、よっしー」と肩を叩かれる。 振り返ると職場の仲間の田中さんが息子さんを肩に担いで立っていた。 「あ、お疲れさまです」 「夫人はどうしたのよ」 「今、図書館なんです。オレは食材リサーチを仰せつかって」 言うと、彼は右頬を歪めて笑みを浮かべて僕の背中をドンと叩いた。 「おっまえ、ほんと忠犬ハチ公な」 「すべての夫はハチ公たれ」 僕が言うと、田中さんが目を丸くした。 「なんだよ それ。クラークさんか」 「うちの御台所の名言です」 「出たよ名言。まぁ、オレもポチくらいには主人に忠実だかんな!」 なぜか張り合うような言い方をしながら僕を再び叩いた彼は、息子さんを空いていた方の肩に担ぎ直して「またなー」と去っていった。 僕の会社では、朝礼で専務に続いて誰か彼かがスピーチをするのだが、入社したての頃にあまりにネタがなかったので妻の話をしたら大ウケして以降、妻は人気者だ。
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