第1章

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 私達夫婦は90歳と88歳を迎え、お互い「不眠症」とか「膝関節症」とか「物忘れ」とか同じ様な欠陥を抱えて、時々色々の「とんちんかん」をやりながら、それでも毎日共に食べ、眠り、起きて生活している。  夫は満蒙での戦いの時に鼓膜が破れ、それが老化と共に症状が進み、今では殆ど補聴器なしでは全聾といった状態である。  妻の私は生まれつきの「消化器不全症と貧血」で1日何かしら働いて夕食を終えると、ゆっくり飲んでいる夫を放ってベットに入ってしまう。    そんな生活ながらなんとか自分たちの生活は人の助けを借りず、いや寧ろ何か若い者達の役に立つ事を「老後の仕事」として持っている。  けっしてそれを恩きせがましく思ってはいない。  私達のポリシ-だから未だに人の手を借りず生活し、少しは大切な子や孫の生きる助けになっているという誇りが生きる支えになっているのである。  ただ昨夜思いもかけないアクシデントが起き、「老々」を如何に上手にこなすかをしみじみ考えてしまう出来事が起きたのだ。  以下にその顛末を文章化しようと思う。  「就眠不安症」と言うものは一種の「神経障害」であると思う。  眠れない夜が幾夜か続き、朦朧としてベットインすると「今夜も暗闇で無為の時間を過ごさねばならないにでは」と言う恐れが頭をもたげる。  その意識が益々就眠を妨げる。  処が昨夜の私は究極力のギリギリの状態だったらしい。  好きなドラマを見ている内にドカンと深い眠りに落ちたらしい。  そのあと夫は食後の流しで食器洗いをし、何にでも念の入る性格で念入りに流しの掃除をし出した。  生ゴミを庭の樹木の根っこに埋めようと上り口から降りようとした途端転んだと言う。  一瞬気が遠くなり分らなくなったがすぐ気が付き私を呼んだそうだ。
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