第1章

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 気がつくや隣室で寝ている私を呼んだそうだが、生憎何日ぶりかで深い眠りに落ちて間もなくの私は目が覚めない。  寝入りばなだから意識が戻らない。  夫は自分の携帯で救急車を呼んだそうである。  夕刻の事故、救急車も無音で来たのだろう、一人で玄関に出た夫を載せて、車で10分ほどの「船橋医療センタ-」へ連れて行ってくれた。  遠い病院に運ばれなかったのも夫の運の良さか、機転なのだろう。  レントゲン撮影もして貰い、「単に擦り傷だけで問題ありません」との診断で、帰りは通りからバスで帰ったと言う。  今回は又「夫の武勇伝」の一つとして笑い話で済んだわけだ。  然し何しろ89歳と87歳の老夫婦なのだから、何時まで「保さんの運の良さ」で済むと思い上がってはいけないと思った。  未来永劫二人揃って「喧嘩人生」を続けて居たら「化け物」である。  二人共ある程度の「就眠障害」を抱える老人であるから、隣室に居ながら「生涯のお別れ」と言う結末になる可能性もあるわけだ。  夫は「人間何処で如何いう結末になるか判らん、それで好いじゃないか」と言うが私にはそんな諦めの好い事は考えられない。 性格の違うお互いを反発しあいながらも、懸命に歩みよりながら50数年付き合ってきて、今更隣室に寝ていて「サヨナラ」も言わずにお別れするなんて「間抜け」な事をしたくない。 さりとてお互い就眠出来た時が同じと言う訳に行かない。 何かアクシデントが起きた時、偶々熟睡している相手を覚醒させる方法を何か講じてくれる様に器用な夫に頼んである。  多分ボタンを押せば驚くような音でブザ-が鳴る様にしてくれる筈である。  その操作が出来ないような状態ならばこれは最早「不可抗力」と言うわけである。  私はある友人でご主人とあまり仲良くない方が、埼玉と墨田区の別別の家に居た際、偶々墨田区に居られたご主人が急死された。  私はその時内心「夫婦はいつも共にいるべき」と批判した。  今その思い上がりを自ら恥じて、その友に詫びている。  
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