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舷側にザブンザブンと小さな波が打ち寄せる。夜の暗がりの中を進む遠洋漁船の甲板で、灰薔薇黒木は前方にきらめく街の明かりを眺めながら感慨深げにつぶやいた。
「やれやれ、やっと陸に戻れるよ。いくらバイト代がいいからって、もう漁船はごめんだな」
長髪は潮風でパサパサになっていた。一か月間陸地の影すら見えない沖合でマグロを追いかける生活も、明朝には終わる。
灰薔薇はふと思い立って、スマホの電源をオンにしてみた。
「お、やった! 電波もう圏内じゃん」
灰薔薇は甲板の端に寄りかかり、腕をいっぱいに伸ばしてスマホのカメラを自分に向けた。陸地の光に溢れた夜景が、自分の真後ろに映る様に位置を調整する。
「さて、記念の自撮りっと」
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