第1章  はじまりの音

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 一つ年上の高橋先輩は、学校一のモテ男だ。特に成績優秀とういうわけでも、スポーツ万能というわけでもない先輩だが、顔が無駄に良いのだ。そんな先輩に先日、今流行りの”壁ドン”をくらった俺は、あれは一体なんだったのかとグルグル考え込んでいる。いくら同じ部活の後輩とはいえ、部活には滅多に顔を出さない先輩とは、ほとんど話した事もない。一体全体、何がどうしてそうなったんだ!?といくら考えても答えは出ない。 「あぁ・・・まったくほんとにあの人は、何を考えているんだか」 放課後、部室の窓から見えた先輩を見つめながら呟く。手にしていた筆から淡い水色が床に垂れたのにも気づかず、俺は先輩を見ていたのだった。  平凡な容姿に平凡な性格、成績は中の上とういうモブキャラを地で行く様な人間である俺は、ごくごく普通の高校2年生だ。家と学校の往復しかほとんどしない毎日だが、それなりに友達はいるし、何も不満はない。 「あーらーきー!!」 「よ。おはよ近藤」 「おはよ!なんだよお前朝からテンション低くないかー?荒木翼くんよー」 「お前がテンション高すぎなんだよ。朝からうるさい奴め」 「まぁまぁ、そうカリカリしなさんなって。これやるからよ」 「ん?飴?」 「朝姉貴にもらったんだよ。お前にもわけてやる」 「あー、いや、うん。ありがとな」 「おう。いいってことよ」 この、朝から無駄にテンションの高い近藤という男は、1年の時に同じクラスだった。席が近かったのをきっかけに話すようになったのだが、あまりにテンションが高いので、時々ついていけなくなる。 「そういやお前さ、俺とんでもねー話聴いちゃったんだけど・・・あれってマジ?」 「げっ!聴いちゃったって・・・あれだよな?」 「お前が何を思い浮かべてあれと言ってるかはわからんが、きっと、その、あれだ」 「うわー・・・マジかよ・・・」 思わず地面にしゃがみ込む。きっと近藤が聴いたのは、先輩との壁ドン事件だ。たまたま通りかかった誰かが見ていたらしく、2日程前から噂になっていた。お蔭で、先輩の事が好きな女子からの視線が痛い。俺は何も悪くないだろ!!と思いつつも、先輩に壁ドンの理由を聴く勇気は俺にはなかった。 「あー、マジもう学校行きたくねー」 今の俺の、素直な気持ちだった。
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