初章 誕生日

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”君は、どうしてそうなの?” 志賀先生。 解りませんか? ”そんな事じゃ、進学の為の内申書にも、響くわよ?” そんな事は、些細な問題ですよ。 志賀先生。 ”私、柚木君が、あんな問題を起こす子だとは、どうしても思えないの。” 僕も。 僕が、あんな事をしてしまうなんて、思いも因りませんでしたよ、先生。 ”ねえ、柚木君。” それも、これも。 みんな、貴女が悪いんですよ、先生。 ”理由(わけ)を言って?あんな事をしなくちゃいけない、理由があったんでしょ?” だって。 こうすれば。 先生と、二人っきりになれるじゃないですか。 ”・・・言えないの?” 言いたい。 言いたいです。 ただ。 ”困った子ね、もう。” 憂いを帯びた。 その顔も。 とっても綺麗だから。 ”私には、言えない理由なの?” そう。 あまりに先生が、綺麗だから。 何も言えなくて。 僕は。 ”もう、いいわ。” こうして、黙ったまま。 この時間を、終えてしまう。 ”今日は、帰りなさい。” ああ。 待って。 待って下さい。 ”反省文を、明日までに。忘れないように、ね。” もう少し。 もう、少しだけ。 この時間を。 先生と、僕の時間を。 二人だけの、時間を・・・ 志賀、瑠璃先生・・・ 「あなた。あなた。」 「ん・・・」 妻の恵子に揺り動かされ、柚木勝正は目を覚ました。 「・・・おいおい。」 枕元の置時計を確認し、溜息を吐く。 「まだ、真夜中の三時じゃないか。」 「だって・・・何だか、うなされてたから・・・」 「・・・」 「悪い夢でも、見ていたの?」 「そう言う・・・訳じゃ、無い・・・けど。」 「無いけど、何?」 「いや、何でも無いよ。」 中学時代の、初恋。 いや、恋と言うよりは、思春期の男子の、大人の女性に対する、背伸びに近い、憧れ、だろう。 愛する妻と言えども、それを笑って語るには、まだ若過ぎる勝正だった。 「・・・まあ、いいわ。」 可笑しな寝言でも漏らさなかっただろうか、と、軽く冷や冷やしていた勝正は、恵子のその一言に、安堵を禁じ得なかった。 「それより、今日は早く帰って来て、ね。」 「今日?何かあったか?」 「やぁね。」 恵子が、くすくすと笑う。 「あなたの、誕生日じゃないの。」
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