初章 誕生日

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「誕生日、か。」 この年齢になって、それを祝うのも気恥ずかしい気もするが、新婚一年目の二人にとっては、そう言ったイベントの一つ一つが重要と言えなくも無い。 「私、ご馳走作っておくから。ね?」 新妻の花のような笑顔に、つい勝正の頬も緩む。 「楽しみにしているよ。」 が、やはり、心の何処かに”子供染みている”と言う感想が厳然と存在する勝正の表情は。 「もう。あなたったら・・・」 苦笑、と言う形で発露してしまう。 「あ、いや、た、楽しみなのは、本当さ!た、ただ・・・!」 「ただ、何よ。」 何なのだろう。 勝正は必死に、続く言葉を考える。 「お、俺もまた、一つ歳を取るんだな、って、さ。もう、若くないよなぁ。」 「私、あなたより年上なんですけど?」 「あ・・・」 咄嗟に口から出た言い訳は、藪蛇になってしまった。 「と、年上って言っても、たった二つじゃないか!」 「いいわよ。どうせ、若くないわ。」 そうは言うが。 童顔で、しかも。 空手だったか古武術だったかを習得していたと言う彼女の肢体は、豊満とは言い難いが、未だ引き締まっていて、瑞々しい。 むしろ、姉さん女房なのだと余人に語れば、一様に驚かれてしまう。 『ま、参ったな・・・』 曲げたつむじを、どうやって真っ直ぐにするかとあれこれ思案する反面。 「・・・」 すねて横を向く、その表情も、勝正にとっては愛おしい。 「あっ・・・」 結局、言葉では無く。 その感情に身を任せてしまった。 「あなたったら・・・んっ・・・!」 しかし、結果的に、それがベストな判断だったらしい。 「かつ・・・ま・・・あっ・・・!」 潤む、瞳。 熱い、吐息。 火照る、肌。 掌。 指。 舌。 「や・・・やぁっ・・・!」 勝正の愛撫に。 恵子の身体がぴくん、ぴくん、と踊る。 そして。 「恵子っ!」 「ああっ!」 空間までもが、ほんのりと染まったように、感じる。 気付けば、ち、ち、と時を刻む時計の針は、四時を指していた。 「・・・ねぇ。」 ”事後”の、気怠い余韻の中。 恵子が、未だ軽く乱れた息のまま、ふと口を開いた。 「・・・知ってる?」 「何を?」 「誕生日、で思い出したんだけど・・・」 瞬間、恵子の顔は。 何処と無く、いつもより大人びて感じた。
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