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「誕生日、か。」
この年齢になって、それを祝うのも気恥ずかしい気もするが、新婚一年目の二人にとっては、そう言ったイベントの一つ一つが重要と言えなくも無い。
「私、ご馳走作っておくから。ね?」
新妻の花のような笑顔に、つい勝正の頬も緩む。
「楽しみにしているよ。」
が、やはり、心の何処かに”子供染みている”と言う感想が厳然と存在する勝正の表情は。
「もう。あなたったら・・・」
苦笑、と言う形で発露してしまう。
「あ、いや、た、楽しみなのは、本当さ!た、ただ・・・!」
「ただ、何よ。」
何なのだろう。
勝正は必死に、続く言葉を考える。
「お、俺もまた、一つ歳を取るんだな、って、さ。もう、若くないよなぁ。」
「私、あなたより年上なんですけど?」
「あ・・・」
咄嗟に口から出た言い訳は、藪蛇になってしまった。
「と、年上って言っても、たった二つじゃないか!」
「いいわよ。どうせ、若くないわ。」
そうは言うが。
童顔で、しかも。
空手だったか古武術だったかを習得していたと言う彼女の肢体は、豊満とは言い難いが、未だ引き締まっていて、瑞々しい。
むしろ、姉さん女房なのだと余人に語れば、一様に驚かれてしまう。
『ま、参ったな・・・』
曲げたつむじを、どうやって真っ直ぐにするかとあれこれ思案する反面。
「・・・」
すねて横を向く、その表情も、勝正にとっては愛おしい。
「あっ・・・」
結局、言葉では無く。
その感情に身を任せてしまった。
「あなたったら・・・んっ・・・!」
しかし、結果的に、それがベストな判断だったらしい。
「かつ・・・ま・・・あっ・・・!」
潤む、瞳。
熱い、吐息。
火照る、肌。
掌。
指。
舌。
「や・・・やぁっ・・・!」
勝正の愛撫に。
恵子の身体がぴくん、ぴくん、と踊る。
そして。
「恵子っ!」
「ああっ!」
空間までもが、ほんのりと染まったように、感じる。
気付けば、ち、ち、と時を刻む時計の針は、四時を指していた。
「・・・ねぇ。」
”事後”の、気怠い余韻の中。
恵子が、未だ軽く乱れた息のまま、ふと口を開いた。
「・・・知ってる?」
「何を?」
「誕生日、で思い出したんだけど・・・」
瞬間、恵子の顔は。
何処と無く、いつもより大人びて感じた。
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