初章 誕生日

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「・・・」 午後六時を回った、駅前。 恵子との約束通り、定時で仕事を上がり、通勤電車を降り、帰宅の途に就く筈の、勝正だった。 が。 『どう、するか・・・』 視線は、自宅最寄りのバス停を通るバスと、タクシーの間を行ったり来たりしている。 ”地元のタクシー運転手なら、道返しの神社、って言えば、分かるはずよ。” 恵子の言葉が、脳裡に蘇る。 ”へぇ。誕生日に願うと?” ”ええ。会いたい人に、会わせてくれる、って。” ”面白いお伽話だね。誕生日に、って所が、また。” ”あーっ。信じてないでしょう!” ”あ、いや。ごめん、ごめん。君の言葉を疑う訳じゃ無いんだ!” ”ふーん、だ。” ”なぁ、機嫌、直せよ。” ”あっ・・・やだぁ・・・さっき、したばっかりじゃない・・・” ”いいじゃないか。夜明けまでには、まだ時間があるんだ。” ”んんっ・・・もう・・・” ”そう言う恵子だって、ここ・・・” ”うぅん・・・知らなぁい・・・ああっ・・・!” ”ほら、もう少し脚、開いて・・・” ”そ・・・れで・・・ね?” ”ん?” ”その・・・あんっ!・・・神社・・・” ”その話、まだ続けるのかよ・・・” ”ただ・・・やっ!・・・神木の・・・はぁ・・・前で・・・祈れば・・・ああっ!” ”・・・会いたい人に、会わせてくれる、だっけ?” ”うん・・・” ”会いたい人、ねぇ・・・” ”いる?” ”ん?” ”会いたい、人。” ”う~ん・・・” ”ねぇ・・・あな・・・あっ!?” ”そうは言っても、一番、傍にいたい人は。” ”だ、だめっ!あっ!あっ!あっ!” ”ここに、いるからなぁ。” ”あっ!ああっ!あなたあぁぁぁっ!” 「・・・」 恵子に告げた言葉に、嘘は無い。 ただ。 家に帰れば、恵子は必ず、そこにいる。 だが。 ”あの人”は・・・ そして。 恵子から聞いた、その場所に道草を食ったとしても、さして時間が掛かる訳でも無さそうだ。 タクシーを使えば、精々往復でも三十分程度だろう。 「うん。」 勝正は、自分を納得させるように、一つ、大きく頷き。 「すみません。」 停車中のタクシーに乗り込み。 「”道返し”の神社まで、お願いします。」 運転手に、指示した。
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