次章 神社

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「着きましたよ、お客さん。」 思いの外、目的地は近かった。 十分と掛からず、到着したその場所は。 「・・・」 朽ちかけて、今にも倒壊しそうな、辛うじて鳥居だと解る木組み。 苔に覆われ、日暮れ後である事を考慮しても、闇が支配すると言った態の石畳。 周囲には、民家はおろか、街灯の一つすら無い。 郊外のベッドタウンとして栄えて久しいこの街に、こんな場所がある事自体、勝正には驚きだった。 「お客さん?」 「あ、ああ、すみません。」 場の雰囲気に呑まれた、と言った所だろうか。 ほんの数秒の間とは言え、勝正の目は、その参道に釘付けになっていた。 『これから、ここを歩いて、本殿に向かうのか・・・』 不意にぶるり、と震えた身を、自ら抱き締める。 「お客さん!」 「は、はい!」 再度の呼び掛けに、勝正は漸く財布を出した。 と。 「あ、そうだ。」 その手をぴたりと止める。 「何です?お客さん。」 運転手は訝し気に問う。 ぐずぐずしている勝正に、苛立っているのかも知れない。 「帰りもこのタクシー使わせてもらいたいんで、ここで待っていてもらえます?」 「はぁ!?」 運転手の声は、随分と高い。 「ほんの五分・・・いや、二、三分で済むと思いますから・・・」 「冗談じゃないよ!こんな所に一人でなんて、一分だってやだね!」 「・・・」 その言い様から察するに、この場所のみならず、ここに一人で訪れている勝正自体をも気味悪がっているようだ。 「わかりました。じゃあ、いいです。」 勝正も少々、憮然と吐き捨て 「釣りはいりませんから。」 腹立ち紛れに、少々多めの料金を支払ってしまった。 「畜生!」 走り去ったタクシーを、空蹴りで追う。 「良くもあんなんで、客商売やってるもんだ!」 半面、自分は普段、もう少し温厚な筈なのに、等とちら、と考える。 「・・・」 この、焦りにも似た感情は、やはりこの場の雰囲気に寄る物なのだろうか。 「・・・よし。」 しかし、ここまで来たら、後戻りも馬鹿馬鹿しい。 勝正は自らの声を後押しに、参道に足を踏み入れた。 ぐちゃり。 ぐちゃり。 湿った石畳は、まるで巨大な生物が、何かを咀嚼するような音を反響させる。 その、絡み付くような感触は、何かに足を掴まれている様にも思えた。
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