次章 神社

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「ここ、か・・・?」 やがて、勝正は、その場所へと辿り着いた。 とは言っても、歩数にして十歩強、時間としてもほんの二十秒程、だったと思われる。 にも関わらず、何故か勝正には、随分と長い道程に感じた。 「・・・」 張られた注連縄。 揺れる、御弊紙。 黒々とした、幹。 広げた枝葉は、未だ微かに明るい筈の空を完全に遮断し。 時折、風に、ざわ、ざわ、と音を立てている。 「・・・何だか・・・」 それは、その”神木”自身の意志による、何等かの・・・ 嘲笑いを交えた、”言葉”のようにも、聞こえてしまう。 「・・・!」 勝正は、激しく頭を振って、そんな不気味な妄想を追い出そうとした。 タクシーの運転手が”一人で待つのは一分でも嫌だ”と発言した意味を、少しだけは理解する。 喉が、こくり、と鳴る。 じっとりと、汗が浮く。 肌寒さに、身が震える。 「・・・し・・・」 それでも。 決意、したのだ。 「しが・・・」 今更、どうこうしたい訳でも無い。 「しが、るり・・・」 あの頃の想いを、遂げたい、と言う訳でも無い。 「志賀瑠璃。」 ただ、もう一度。 「志賀瑠璃に。」 会いたい。 「志賀瑠璃に、会わせてくれ。」 顔が、見たい。 「会わせてくれ!」 声が、聴きたい。 「志賀瑠璃に!会わせてくれ!」 ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ ぎいぃ・・・ ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ 「・・・!?」 突然の、突風。 揺れ踊る枝葉。 乱れ舞う枯葉。 「う・・・!」 その一葉が、勝正の頬を掠め。 生温い感触が、つう、と伝う。 「あ・・・」 触れた掌を、広げると。 赤黒い液体が、べっとりと付着している。 どうやら、血のようだ。 先程の葉で切ったのだろう。 「・・・」 ふと気付くと、風は既に止んでいた。 今度は、かさり、とも音の無い、完全なる、静寂。 その為。 勝正の耳には。 はぁ はぁ はぁ はぁ 己の、息遣いと。 どくん どくん どくん どくん 心臓の、鼓動が。 やけに大きく、はっきりと感じられる。 「・・・!」 勝正は、足早にその場を後にした。 頭の片隅で。 先程の騒めきの合間。 軋むような音は何だったのか、と考えながら。
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