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しかし、次の瞬間には穏やかだった表情が一変し、しっかりとした一家の大黒柱としての顔が前に出ていた。
今日も最後の仕上げとばかりにかわいいかわいい麦の穂を愛でながら作業を進めていく。
「……あら?」
と、害獣よけのトラップが作動している気配があった。
中を覗いてみると、タピと呼ばれるネズミの一種が掛かっていた。
あぁやっぱりと、彼女は嘆息しながら罠を外した。
昨晩から拘束されていたのだろう、衰弱しぐったりとしたタピは彼女の手の中で視線だけ威嚇するように睨めつけていた。
タピは平原に住む小型のネズミだが、雑食のためたまに収穫時期が来ると農村部まで出没してくることがあった。
最近はこの辺りで見ることがなかったために、新しいコロニーを周辺に作ったのかもしれない。
彼らは縄張り意識が高く、地面に穴を掘って巣穴としていた。
一家族だけがいるのならいいが、放っておけば際限なく増えていくのが彼らだ。
農家の天敵なため、忌み嫌われていることもあり見つかれば、夜にでも家捜しのように周辺をしらみつぶしに見て回られるだろう。
「どうしようかな?」
彼女は動物の殺生があまり好きではなかった。
肉が嫌いというわけではない。
食べなければ死んでしまう。だからこそ、自分達が食べる分は感謝の気持ちを持って食べている。
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