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命の夜
帰宅するなりソファにうつ伏せで倒れ込んだ広希を、美刀は静かに見下ろした。
何が起こったのかは、言われずともわかる。
わかりすぎるほどに。
だらり、と片腕がソファから落ちた。
「……なんで、お前は生きてる」
聞き取りにくい、くぐもった声。
なぜ、と言われても答えはひとつしかない。
『お前が救ったから』
幾度となく繰り返された同じ会話。
それはまるで、何かを確認するかのように。
「俺はなにも救えない」
思惟を、殺してきたのだ。
『藤倉昭人』
はっ、と顔をあげた。
青いストラップのついた携帯を広希の目の前に差し出す。
『頼めばいいのに。なぜ背負い込む』
それは受け取られないまま、コトリと床に落ちた。
「昭人が連城家に絶望するのが……怖い」
連城家ではなくお前にだろ、とは言えずに黙る。
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