命の夜

1/5
前へ
/35ページ
次へ

命の夜

 帰宅するなりソファにうつ伏せで倒れ込んだ広希を、美刀は静かに見下ろした。  何が起こったのかは、言われずともわかる。  わかりすぎるほどに。  だらり、と片腕がソファから落ちた。 「……なんで、お前は生きてる」  聞き取りにくい、くぐもった声。  なぜ、と言われても答えはひとつしかない。 『お前が救ったから』  幾度となく繰り返された同じ会話。  それはまるで、何かを確認するかのように。 「俺はなにも救えない」  思惟を、殺してきたのだ。 『藤倉昭人』  はっ、と顔をあげた。  青いストラップのついた携帯を広希の目の前に差し出す。 『頼めばいいのに。なぜ背負い込む』  それは受け取られないまま、コトリと床に落ちた。 「昭人が連城家に絶望するのが……怖い」  連城家ではなくお前にだろ、とは言えずに黙る。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加