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――がたん、ごとん
――がたん、ごとん
規則的な振動が、身体に伝わってくる。心地のいい揺れだった。眠気を誘うような。
オレは、窓の外を流れる景色にぼんやりとした視線を送っている。
細く開けた隙間から流れ込む風が、とても気持ちいい。
「緑ばっかし……」
オレが住んでいる――というか、すんでいた――所とは大違いだった。
田んぼ。畑。緑でモコモコとした山。その合間合間に、ゆったりとした間隔で家が集まっている集落が登場してくる。そして、それらを見下ろす真っ青な空。
――がたん
――ごとん
何だか、眠くなってきた。
窓から視線を外し、オレは、座席に深々ともたれた。
腰が前に移動し、膝が目の前の人物にぶつかりそうになる。
目の前の人物――オレの、母さん。
寝ているんだろうか? 母さんは、目をしっかりとつむって、ぴくりとも動かない。寝顔というよりは、石膏で出来た展示品といったところだ。そして、展示品のタイトルは、ずばり――不機嫌。
眉間には、くっきりとした縦じわが刻まれている。ぐっと歯を噛みしめた口元。そして、みぞおちのあたりで組まれた両腕。
いつのことだったか覚えていないけれど、前に、冗談のつもりで言った事がる。
――いつもそんなムスッとしていると、それが普通の顔になっちゃうよ。
と。
そしたら母さん、急に泣きだしてしまったのだ。そんな姿を見るのは、全く初めての事だったので、凄く焦ってしまった。
慰めればいいのか、謝ればいいのか、それとも黙っていればいいのか、それすらも分からずに、オレは、ただ茫然としていた。
しばらくして泣きやんだ母さんは、兎みたいな眼をして、黙ってどこかに行ってしまった。母さんが目の前から居なくなって凄くほっとしたことを、今でもはっきりと覚えている。
そしてその時、ようやくにしてオレは分かったのだった。母さんと父さんは、もう、駄目だ、と。
そんな出来事があって、しばらく経って……今、母さんとオレはこの電車に乗っている。
母さんの実家へとオレ達を運ぶ、この電車に。
(う……)
ほんとに、眠くなってきた。
朝一番に出てきたせいだ。
父さんがまだ、寝ている隙に。
「なあ、母さん……」
オレはそっと呼びかけてみた。すると、目はつむられたままで、言葉が返ってきた。
「何?」
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