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「ああ、起きてたんだ。……オレ、眠いんだけど。あと、どのくらい?」
「あと、1時間くらい。終点だから。眠いのなら、眠りなさい、準」
「うん……」
オレは、ずり落ちていた腰を引き、眼をつむった。
終点か……。
だったら、安心だ……。
もし、母さんも眠ってしまったとしても、必ず、駅員さんが起こしてくれるだろう……。
………………。
…………。
……。
「……さん……客さ……」
「…………」
「……お客さん、起きて下さい」
「……んん?」
「お客さん、起きてくださいよ。終点ですよ」
「んん……うん?」
目の前に、駅員さんが着ような服を身にまとった人物がたっていた。
「なんだ……ずいぶんと気合いの入った鉄道マニアだな……一分の隙もないコスプレだ……」
「ちょ、ちょっと! また寝ないでくださいよ! それに私はれっきとした鉄道員です!」
「んん……?」
ぱちっと目を開くと、さっきと同じ人物が、同じ体勢で俺の顔を覗き込んでいた。
「マニア以外が、そんな服を着るとは思えないぞ……」
「だから、れっきとした鉄道員なんですって。ともかく、終点だから降りてください。って、言ってるそばから寝ないでください!」
「あ……? あ、ああ、そうか……」
ようやく頭がすっきりとしてきて、俺は、正面の座席に置いたバッグを手に取った。そして、駅員さんに追い立てられるようにして、外へ。
「ん、んん~~……久しぶりだな……」
大きく伸びをすると、骨がぱきぱきと鳴った。肺いっぱいに空気を吸い込む。
美味い。
「ん……?」
と、道の向こうから、ふたつの人影が走ってくるのが見えた。凄い勢いだ。マンガ的に表現すれば、背後に土煙が立ち上がるであろう感じ。
ふたつの人影の輪郭がはっきりとしてきて、男女であることが分かった。
男女がヒイコラ走ってくる。
何となく顔を見てみると、ふたり揃って美形だ。
ふたりの美形は、どんどん近づいてくる。
電車だろうか? 俺が乗ってきた電車に、乗るつもりなのかな? 駅舎を振り返る。すると、背後から、『あっ!』という男の声が聞こえてきた。
男の人が、地面に這いつくばっている。
財布を落としてしまったらしく、地面には、小銭が散らばっていた。
「手伝いますよ」
そう言ってしゃがみ込むと、男は緩く微笑んで、
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