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「上をむーいて、
あーるこおぉぉ、
なーみーだーがー、
こぼ」
ボチャンっと大きく間抜けな音が鳴り響いた。
隕石だかゴリラが飛んででもいたのか、
バカみたいに上を向いて歩きながら、
音程が微妙にずれた声で歌っていた少女が池に落ちたのだ。
上を向いていたので下にヌルヌルとした絵の具が溢れていたのも知らないし、心が何処もみてなかったので前に池があることもわからない。
そんなわけで必然的に桜の花びらが浮いたゾウリムシでもいそうな緑色の池に滑り落ちた少女は、
目の前で自分の、蕁麻疹が出るくらい気持ちの悪い頭がヒトデで体がイグアナの妖怪みたいな奴のぬいぐるみと、
利点が歩きづらいことの言い訳に使える程度しかない赤い高そうな靴がゆっくり時間を掛けて池に落ちていくのをみながら、
思わず「ファっ?」なんて気の抜けた声を出すしかなかった。
「………」
池は幸いにも浅く、
下が只の汚い泥だったので怪我もなく、
被害といえば水着みたいな耐水性のある物、
ではなく高そうでお鼻に優しいテッシュみたいにきめ細かくて薄い服が、
びしょびしょに濡れたせいで透け、
貧そうで細い(勿論イカ腹)の裸体がさらされている程度である。
「ご、ごめんなさ~い!!
君大丈夫う!?」
「………」
少女がじいっと底が見えないほど緑色の池の中をみていると、
向こう側、公園のベンチの辺りから無理矢理喉から出したような高い声が聞こえた。
「はあ、はあ…
いやあちょおっとart中にキレて蹴ったらこぼしちゃあって~。」
少女が振り向くとそこには、
金髪のバイリンガルな感じの背の高いアメリカ人…ぽい見た目のたぶん世間一般だとイケメンと言う顔立ちの男がいた。
「語彙力の超合金!!」
彼の白いTシャツにデカデカと書いてあるその漢字が、やたら彼を胡散臭くしていた。
たぶん不審者である。
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