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良い?すぐに未開の地に領域に入るよー」  眼鏡の青年兵は、またしても添乗員のように自分の班になった賞金稼ぎ達に声を掛けた。  未開の地に広がる「痕」は、人の心にも影響を及ぼす。恐怖を助長したり、怒りが込み上げ暴力的にさせたりと、人の負の部分を際立たせる。獣が放つ怪しげな雰囲気も人の心を不安定にさせた。   アーリオ達が調査を受け持つのは森の端だったが、それでも領域に入ると肌に違いを感じた。 「おいおい、この程度にも気をつけなきゃ行けないのかよ。今回のリーダーは随分と柔だな。な?」  カムイは後ろに続く仲間に冗談を言ったつもりだった。一端の賞金稼ぎならば、この程度の精神力は養っている。しかし彼らからは、反応が無かった。  妙に感じカムイは振り返ってみると、一人はしきりに肌を擦り、もう一人は独り言を呟いていたりしている。 「なぁ、誰かが俺の身体を触っているような気がするんだが、なんなんだこれは」カムイのすぐ後ろに居た者が、血の気の引いた顔で彼に尋ねた。 「お前ら……」  カムイは呆れた様に呟くと、先頭を行く眼鏡の青年兵を呼び止めた。 「おーい!ちょっとストップだ!!」  眼鏡の青年兵は歩みを止め、状況を察すると、様子のおかしい者達を森から出る様に促した。そして記帳した名簿に赤線を引き、備考欄に「棄権(笑)」と書き加えた。 「な!?」  それを見たカムイは思わず感情を露にした。 「おい、そんな侮辱的な書き方をしなくても良いだろ」 「え?あぁ、見たの。良いんだよ。事務手続きの時にはちゃんとした用紙に書き直すんだから」 「そういう事言ってんじゃねぇ。敬意の話をしてるんだ。そもそもお前らの人手不足を手伝ってやってんのに」  すると煩わしくなったのか青年兵も感情的に声を荒げた。 「あぁ、もう!金が出るんだから良いだろ?大体試験をちゃんと通って兵士になった僕を守るのに二人も減っちゃ、困るのは君らだろ。ほら、もうポイントに着くから、しっかり守って仕事してよ。僕の備考一つで出る報酬だって変わっちゃうよ」  カムイは掴み掛かろうとしたが、アーリオが後ろから「おい、抑えろ」と声を掛けた。それを見て眼鏡の青年兵は厭らしく笑った。
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