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「じゃ、警戒態勢で待機ね。だいじょぶだいじょぶ、チャチャっと終わらせて日当やるから」 「でも大体あれだよね、こんな場所に獣なんて出ないだろうしさ。出ても僕だって倒せる程度の危険度2ぐらいまでだと思うんだよね。なのに民間に護衛を頼むなんてさ」 「可愛い子が護衛なら上がるけど、こんな奴らじゃテンションもマジ下がるよ。ククッ、おっと失礼だった?」 「しかし賞金稼ぎも大した事無いな。森に入った途端気分が悪くなるなんて。ははっ、訓練兵だってもう少し耐えられるよ」  カムイが手を出さなかったのを良い事に、青年兵の嫌味は次第にエスカレートしていった。  青年兵と二人の間には、普通のしゃべり声では若干聞き取りにくいだけの距離が開いていた。が、青年兵はわざと聞こえるような言い方、声量で、それでいて独り言の様に、感情を逆撫でするような言葉を紡ぎ出していった。 特にさっきカムイが感情的になった名誉に関わるような物言いだったが、既に我に返ったカムイの耳には一切入っていなかった。 「なるほど……」カムイは唇に手をやり、呟いた。 「分かったか?」アーリオは言った。 「あぁ、止めてくれなかったら、俺も気が付かなかった」  そう、「痕」の力が青年兵の心の闇を引き出しているのだった。確かに領域に入る前から、彼は自分と身分の違うアーリオ達に精神的な壁があった。  そこに隙が生まれ、「痕」は彼のエリート意識を引き立たせていたのだった。 「もし俺があの時、あいつをぶっ飛ばしていたら俺もそのまま暴力に飲み込まれていたかもな……。ッチ、まだまだだ」  アーリオはその言葉にフッと笑みをこぼした。 「ねぇ!!聞いてルぅぅ!!!?」  挑発に乗らない事に苛立ったのか、それとも無視された事にプライドを傷つけられたのか、怒りにも似た感情が滲み出した青年兵の声に、二人は振り返った。 手に握っていたペンは折られインク塗れの指を制服の縁で拭きながら「マジ汚ぇんでスけど」とぶつぶつと呟いている。 「てめェらの事言ってンダよ、あぁ?毎日町を警護してんだカラ、俺はよぉ」  彼の目は瞳孔が開き血走っており、眉間には深く皺が刻まれていた。眉が吊り上がり、首筋には血管が浮き出ていた。
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