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「礼ヲ言えよ。アぁ?クソッ、ペンで指が汚ぇ!!」 「どうやら俺らの仕事は」アーリオが言った。 「坊やを守るんじゃなくて、坊や自身を守ってやるって事らしい」 「森の領域に入って理性を保てるって事は、新兵が錯乱した時にも理性を保ってるって事だからな」 「まぁ、お前は危なかったがな」 「ぐっ……」カムイは言葉に詰まった。  その時青年兵は掛けていた眼鏡を投げ捨て、腰の剣を引き抜いた。 「お、おいおい……いよいよヤバいぞ」  そして青年兵がつかつかと距離を詰めながら、何かを呟いた。しかし彼の口元は早送り再生されたかの様に動き、言葉も通常の速度を超え二人の耳にはまるで聞き取れなかった。 「詠唱高速化か……!」  カムイはその早送り再生のタネを言い当てたが、その時には既に青年兵の足下に黄緑色の円陣が生じ、矢のような速度で二人に迫っていた。  それは森に入る前のハッシャリオールの精鋭達の足下に生まれた円陣と、同じものであった。加速された青年兵の動作は、精鋭達のそれと比較するとかなり遅かった。  しかしそれでも、二人には不利な状況だった。  精鋭達の能力上昇に比べると天と地程の差はあったとしても、通常状態の常人よりかは格段に動作が素早くなっていた。その上詠唱が高速化された為、何が発動されるのか分からないまま、二人は無理矢理に攻撃的なスイッチを入れ思考回路を変更させなければいけなかった。  二人が身構え重心を落とした時には、既に青年兵が二人の眼前まで詰め寄っていた。青年兵の引き抜かれた剣も青白い光りに包まれていた。それは剣の硬度が高められている事を意味していた。 「はハぁぁァ!!!!!!!」  歪んだ口元から息を吐きながら、高笑いをする青年兵の目とアーリオの目とが合った。 (来る……!!!!)  そしてアーリオが自分の剣の柄を握った時には、速度の上がった青年兵の斬撃が眼前に接近していた。 (間に合わないか……)
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