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「まぁ、これで一件落着……か?どうやって説明すんだ?」
「ん?まぁ、集合地点に戻って本部役の人間に引き渡せば良いだろ」
「くっそ、何かただ働きになる臭いな」カムイは舌打ちをした。その時には、彼の両腕を包む光りは消えていた。
「ところでアンタ、『体術師』か?詠唱を破棄出来るなんて相当な手練だな」
「え?そう?ダハハハハ!!まぁな?」
その瞬間、二人の背中に寒気が走った。すかさず振り返ると、青年兵が起き上がり二人を睨みつけていた。顔は相も変わらず鬼のような形相。冷や汗を掻き、歯茎が見える程歯を噛み締めていた。青年兵は、2、3度血混じりの咳をした。口の脇から垂れた血を拭きながら、肩で息をしている。
「俺はそんなに強く殴ってないぜ?」カムイは言い訳をする様に言った。
「いや、分かっている。あれはお前のせいじゃない。やっぱり高速化はあいつの実力じゃないな……」
「どういう事だ?」
「……魔力が、逆流したんだ」
詠唱破棄とは違い、高速化は実践で用いられる技術であった。先手をとるチャンスが上がる常套手段として使用者は多かったが、決して容易ではない。包丁の扱い慣れてない人間が突然キャベツの千切りをした所で指を切るのと同じく、経験の浅い青年が実践で口慣れてない詠唱を高速化すれば、成功しているようでも、仕上がり後に手抜かりがあるのは当然の事だった。
それ以上にカムイには腑に落ちなかった。
「あいつなんで起き上がれんだ?」詠唱破棄まで使える「体術師」が、気絶させる加減を間違えるのだろうか。アーリオは簡単に答を言ってのけた。
「『痕』がまだ戦えって尻叩いてんだ。力貸してんのにこの様かってな」
「……なるほど、ね」カムイは奥歯を噛んだ。
「しかし良く分かるな。まるで見知った女みたいな言い方だ」
「あぁ、性悪だよ。最悪の女だ。そんな事より見てみろ、アイツの手」
青年兵の手は青く光り硬質化され、しかも形状が鋭く尖っていた。
「あ!あいつ俺の技を!」
「しかもご丁寧に刃物みたいに纏わり付かせてる。どうやら応用が聞く程度にガリ勉ではないらしいな。あれがセンスだったら間違いなく幹部候補だ」
「そんな若手のホープぶっ飛ばしちまったら、ただ働きどころか、賠償もんじゃねえのか?俺ぁ今すぐ帰るぜ」
「いや、無傷で返せばむしろ表彰もんかもな。とにかく、俺に考えがある。あいつの動きを止められるか?」
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