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「あぁ、問題ない。素手である以上、手が刃物でも動きは肩からだ。踏み込みのタイミングで読み切れる」カムイはニヤリとした。 「上出来だ」アーリオが応えると、カムイは自らの手に光りを纏わせ、青年に向かっていった。そしてアーリオは自らの剣を抜き、地面に突き刺した。  アーリオは十字架を切ってから目を瞑り、胸に忍ばせたスキットルから何かの液体を剣に零した。しっかりと刃にも行き渡り、下に伝い、地面に沁み込む。そして静かに、とても鎮かに、詠唱の言葉を紡ぎ出した。  一方カムイは青年兵の斬撃を避けながら、冷静に観察していた。目を肩と脇腹から反らさずに、視野で脚の動かし方を感じ、青年兵の間合いと攻撃パターンを読み続ける。そんな事をせずとも青年兵の硬質化させた手刀など体術系の魔法で無効化させる事も出来たし、もしくは多種の格闘技を使い、刃の軌道を柔軟に去なしてから関節を締め上げる事など雑作も無かっただが、これ以上自分の技を盗ませたくはなかった。 「一瞬だ。決めるならば……」カムイは心に思った。カムイは青年兵が肩から水平に攻撃するのを逆算し、わざと両手のガードを下げた。案の定、青年兵は顔を狙ってフックパンチの要領で手刀をカムイに突き立てた。しっかりと踏み込まれた渾身の一撃。「そう、それだ」。カムイは背中を丸め潜り込み手刀を回避。そして二の腕を力の放たれる方向へと引っ張る。青年兵は全体中を乗せた方へと重心を持っていかれ、バランスを崩した。 思わず足を着く。しかし目の前には誰もいない。 「こっちだ」  カムイは青年兵の後ろに居た。 バランスを崩した一瞬で回り込み背後を取ったのだ。そして青年兵の鼓膜が呼びかけられた声を認知する前に、喉元に腕を回した。  取った。  カムイは青年兵が顎を引く前に、蛇が獲物に巻き付く様にしっかりと締め上げた。  横目でアーリオの方を確認すると、彼は自分の剣を地面にさして棒の様に突っ立っていた。
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