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「じゃあカプレーゼと鯛のカルパッチョ。ワインは白で、良いよな?」 「当たり前だろ!」アーリオは突っ込んだ。  しかしその突っ込みの声も気ならない程、イタリアレストラン「アドリア」は繁盛しており、辺りは各々自分たちの話で盛り上がっていた。  二人が通されたテーブルは、店の裏手に合った庭の席だった。石畳がむき出しになった所に鉄の丸テーブルが置かれ、パラソルが立てられていた。日が落ちて来たので、感じよく配置された松明に火が灯されている。テーブルと椅子の高さはちゃんと計算されており、金属のテーブルにありがちなガタ付きも無く、リラックス出来る作りになっていた。 「意外と貰えたな、報酬」  二人が青年兵を集合地点に返すと、本部役をしていた数人の上官兵の顔色が変わった。青年兵を救護係に引き渡すと、何が起こったのか察したように「ご苦労」と敬礼をして、二人に日当を手渡した。 「多分この金額、坊やの一件を黙ってろって意味も含まれてるんだろ。『痕』の外側部分ではあったが、あの辺りは恩恵を受け易い。ある種の溜まりみたいになってるんだ」 「へぇ……。なぁ、あの小僧を背負ってた時からずっと聞きたかったんだが。お前、アーリオよぉ、『未開の地』について随分と詳しいな」 「ん?」アーリオは運ばれたカルパッチョに添えられたレモンをしっかりと搾った。一切れ口に入れると、噛み応えのある白身は新鮮でオリーブオイルと良く合った。薄紅色の岩塩が振られ、絞ったレモンが行き渡り、ワインと良く合う。 「ん!んまいぞ、これ!」アーリオは唸った。 「聞いてるのか?だから……、旨いな!」カムイは聞きたかった事もいっぺんに忘れ、運ばれた肴を楽しんだ。  その後にカプレーゼを平らげ、「三種のチーズを乗せた石窯マルゲリータ」を食べ終わる頃には、ワインのビンが三本空けられていた。 「あぁ、食ったぁ!」カムイはグラスに残った最後のワインを飲み干すと、気持ち良さそうにテーブルに突っ伏した。アーリオもグラスを天高く上げ最後の一滴まで喉に通し、そのまま背もたれに寄り掛かり、夜空を見上げた。辺りの客は疎らになり、店の中では片付けが始められているのがアーリオの視界に逆さまに写る。そこに制服姿の三人の男がアーリオ達に近寄って来た。
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