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次の日の朝。アーリオは目覚めた最初の思考で、昨日の喉の痛みを思い返した。首筋に触ると、イザベラの言葉が蘇る。 「ご理解頂けましたか?一般人に覇王陣の事を口外しようとすれば、先程の様になります。貴方は大罪の容疑が掛けられたまま、監視下に在るという事をお忘れなく」。そしてイザベラを歓迎する意味も込めて、三人で食事をした記憶に思考が行き着いた。ふとしたキッカケで、カムイが彼女と飲み競べをすると言い出した事まで思い出す。 「覇王陣……」一言呟いてから、アーリオは顔を洗って着替えをした。  宿の一階に降りると、併設されている食堂に入った。すると見覚えのある体つきをした男が背中を丸めて座っていた。カムイだ。テーブルにはピッチャーに氷水が置かれており、コップに移さずそのままガブガブと音を立てて飲んでいる。  アーリオはカムイに近づき、「惨敗だったな」と肩を叩いた。 「あの女……。酒、強過ぎだろ」カムイは血の気の引いた白い顔で呟いた。  アーリオは、笑いながらセルフサービスのコーヒーを注いだ。 「で、これからどうするんだ?」カムイはアーリオに尋ねた。 「ここでイザベラと落ち合う事になってる」 「あの酒豪女と?デートか?」  アーリオは「いや、残念ながら」と言い、一枚の写真を出した。それは町中を歩く一人の青年の写真だった。フランスパン程の長さの剣を腰に備えず、両手で大事そうに抱えていた。猫背で肩に力が入り首を竦めながら歩き、くまの出来た目元から放たれる視線は正面ではなく、周囲に向けられ周りを気にしているようだ。まるで万引きの現場を押さえたような、何も言われなければ、この青年が手に抱える剣をどこかから盗んで来たかのような写真だった。 「この泥棒を捕まえるのか?」  カムイは当然の様に聞き返した。
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