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 三人は町の中心に入り、一番活気のある大通りに出た。そこには簡単なテントで日差しを遮りながら、野菜や肉、野菜と様々なものが売られていた。まだ太陽が上り切る前の涼しい時間帯だったが、既に店を畳む者もちらほらと見えた。  その市場を通り抜けると、何やらこの町には今まで無かったものが見えてきた。人の身長の倍はあり、大人五人が手を広げて囲めるか囲めないかくらいの大きさ。道の真ん中に配置されたそれは、待ち合わせにはピッタリと言える程、遠くから見ても目立っていた。その隣では揃いのTシャツを着た若者が、鉄パイプを組み合わせている。一見して何かのステージと分かる骨組みに、「赤いカーペットまだ届かないのか!?」と大声で喚く中年男性が、慌ただしく走り回っている。彼がこの現場を取り仕切っているらしく、若者に指示を出したり、搬入物を数えながら手に持った書類と照らし合わせている。  ここで開通式が行われるのだ。  白い布で覆われたものはその時に公開されるモニュメントであり、開通される各町に共通しているらしく、「協調と繁栄」がテーマに作られたと各報道が取り上げていた。  その町の中心地を抜けて北西に向かうと、農業地域が広がっている。市場で売り終えた空の荷台を引きながら帰路に着く者や、汗を拭いながら鍬で土の手入れをする者などが目立つ。  その中のある畑で、似つかわしくない格好をした青年が聖書を広げて、何かを唱えている。豊作の祈祷だろうか。しかし、この手の詐欺はとても多く、呪文について何も知らない一般人に有る事無い事を吹き込み、適当な言葉の羅列を祝福の呪文と称して、金銭を受け取るのだ。アーリオは、自身も魔法が使える為に感じ取る事の出来る六感で注意深く彼を観察した。が、青年の祈祷によって畑全体に力が注がれたのが窺い知れた。力強いオーラに包まれた作物や土壌が、青年が中々の使い手である事を暗に含んでいた。  アーリオがほっとしてそのまま観察を続けると、畑を所有している夫婦が青年に近づき、何度も頭を下げ出した。そして封筒を取り出し渡そうとすると、青年は焦った様子で一歩下がり、今度は彼が頭を下げてそそくさと二人の前から去って行った。夫婦は一度顔を見合わせてから、逃げ出すように去り行く青年にもう一度頭を下げていた。  アーリオは何だか幸せな気持ちになった。隣を見ると、イザベラも肩を竦めクスクスと笑っていた。
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