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「何か良いよな、ああいうの」とカムイが言うと、イザベラは頬の弛みを素早く引き締め、「何がですか?」としらばくれた。そのやり取りを見て、アーリオは二人に分からないように少し笑った。
暫くして畑が無くなり、完全に人気の無い地帯に出た。右手を見ると、そこには未開の深林の巨木が広がり妖しく手招きしながらも、侵入を拒んでいるようでもあった。
「もう町を覆う結界から出たでしょう。移動系の呪文は使えますか?」
アーリオは使えると言う前提で、イザベラはカムイを見た。アーリオもカムイを見ると「なんだよ。そんな見て……」と言い、鼻の穴を膨らませた。心無しか頬が紅潮している。
「…………」
「……………」
「……………」
「……」
「………………」
「使えねーーよ!!!」カムイは言った。
アーリオは「まぁ、体術師だからな」とフォローを入れると、イザベラが小さく「パラディンでも使える方は使えます」と呟いた。
「悪かったな!」と吐き捨て、「どうすんだ、俺は?留守番か?」と聞き返した。
「いえ、時空移動で行きましょう」
イザベラは石で地面に×印を書き、そこに向かって両手を前に出し腰を落とした。
「あれは……攻撃魔法系の構えだが」とアーリオは独り言を呟いた。その間カムイは「方法があるなら先に言えってんだ」「べつに移動が出来なくたって歩きゃ良いんだよ、別によ……」などと、小枝で地面を突き刺しながら独り言を繰り返していた。
数分が経過した。
さっきから同じ体勢で身動きを取らないイザベラの額には、うっすらと汗が滲んでいた。
それが顎まで伝って地面に落ちる。
しびれを切らしたのか、カムイが「さっきから何やってんだ?」と声を掛けようとしたその時、×印の辺りの景色が石臼を引くようにゆっくりと螺旋状に歪み始めた。カムイは何かの錯覚かと思い何度も目を擦ったが、しっかりと現実に起こっている。それを暫く見ていると、焦点を合わせる事の難しさに気付く。螺旋の真ん中を見ていると、いつの間にか焦点が開き左右どちらかにズレてしまう。船酔いと目を回した状態が同時襲い、とても気分の悪い。カムイは一度頭を振ってから好奇心で、その螺旋にそっと触る。
途端、手がその螺旋に沿ってガムのように伸びて行った。
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