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辺りの景色が目薬を差したように、一度ぼやける。そして瞬きをする間もなく景色がはっきりと鮮明になると同時に、ピンぼけの空間から拒絶されるように弾き飛ばされた。衝撃のあった部分を抑えながら、辺りを確認すると、天井が有り、壁がある。そこは何かの建物の中だった。 その時、後ろから重い衝撃があった。カムイが同じように弾き飛ばされ、アーリオの背中に彼の巨体がぶつかったのだ。 「っつぅ、……てめぇ。あぁ、お前か!悪ぃ、大丈夫か?」カムイは一瞬警戒したが、自分が仲間にぶつかった事に気が付くとそれを解き、「ここ、どこだ?」と同じように辺りを見回した。 「建物は……建物だが」  近くには山積みにされたパイプ椅子やバネの飛び出したソファが置かれ、所々剥がれ板のむき出した壁紙や割れた床のタイルが廃屋になった環境である事を告げている。埃とカビの匂いが空気を包む。  外の光りは泥まみれになった皹割れた窓から微かに入り、黄色く濁った明かりが辺りを面倒くさそうに照らす。その部屋に続く廊下は一切の光りが届かず暗がりになっていた。しかしそこに何かがある。カムイは身体を前のめりにして目を細めた。「うぉ……」何かが分かると、一瞬ギョッとし身体が緊張した。ふうっと息を吐き、落ち着かせる。  それは腰と頭に手を置きポーズを取るマネキンだった。なぜ、暗い廊下に置かれているのか。さしずめ誰かが誰かを脅かす為、戯れに置いたのだろう。その考えに至ると、カムイは術中にハマり驚いた自分に向かって舌打ちをした。 「どうした?何かあったか?」  「あれ……」とマネキンを指差したが、カムイは自分が不用意に驚いた事を誤摩化そうと、「何か無いか?俺はよく見えないんだが……」と切り返した。 「ん?」とアーリオは廊下に進んで行く。  そこでカムイは、アーリオはどういう反応をするかと一瞬興味を持った。しかし、今までの短い間でアーリオが常に冷静で、物を自分より知っている事を思い出した。そして特に驚きもしないで戻ってくるだろう、下らない事をしたと、思い直す。  が、その時。何かが崩れる大きな衝撃音と、埃が舞い上がるのが廊下の暗がりから聞こえた。そしてアーリオが、何事も無かったかのように戻ってくる。
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