0人が本棚に入れています
本棚に追加
三人がその廃屋を出ると、通りには誰も居なかった。ヴァインのように道は舗装されておらず、地面が向け出しになり、所々雑草が生えている。建物もちらほらと建っており、先の廃屋のようにショーウィンドウの窓の割れている所や、鉄格子の嵌められた扉の店などがある。町並みを見回すと、低い建物の隙間から遠くに聳える山脈が覗いている。町ではあり得ないような開けた空。寂れた雰囲気が否めない地域で人気も無いのに、殺伐とした肌触りが存在していた。
廃屋に隣接するチャイニーズレストランのドアにもしっかりと鉄格子が嵌められていた。昼も営業しているらしくそのドアは開かれていた。中からは儚いカントリーソングと共に、古い油の匂いがむわっとした。主人は厨房で大鍋を振っている。小太りだが腕が太く、この地域で自分の店を守っているせいか目つきが鋭く無表情だった。
カウンターには客が一人居た。熊のような体つきの男が炒飯を口の中に流し込んでいる。彼はアーリオ達に気付いたのか一度ギラリと睨んだが、力量を察したのかスッと目を反らした。
その隣に目的の安宿があった。石造りで作られ、無機質な仏頂面をしている。エントランスの塀は半壊しており、崩れたものが地面に散乱していた。
フリーライターの部屋まで行き、二、三度ノックをする。返事が無い。
「この間もこんな感じで、何度かドアの間で事情を説明し聴取しようとしたんですが……。……卑猥な言葉を投げかけられただけでした」イザベラが兵士として気丈に振る舞ったが、少し苦々しく緊張したように前回の顛末を話した。
「クズだな。ぶち壊すか?」カムイは少し荒っぽい声でアーリオに聞いた。
アーリオは「考えがある」と言って、ドアに近づき越し、低い声で「この間のネガを買いたい」と短くドア越しに告げた。しかしまだ返事ないが、少し間を空けて「言い値で良い」と続けた。
暫くしてノブの回る音が聞こえた。軋む音がし、ドアが開く。
後ろの二人は顔を見合わせた。
最初のコメントを投稿しよう!