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久々の味に思わず口角が上がる。昔から慣れ親しんだ酒だ。アルコール度が高く、胸が焼けるのが癖になる。鼻から息を吐くと、強いハーブの香りと共に鼻腔の粘膜を乾かすような熱さが、勢い良く駆け抜けていった。アーリオは初めてこれを飲んで以来、虜だった。ただ製造元が小さな酒造場で、どの酒場にもあるという代物でもなかった。 「アンタ運が良いよ。ずっと入らなかったが、先日やっとな」  アーリオは自分の幸運を肴にして、しばしの間喉の熱さを堪能した。  その間主人は一切話しかけなかった。しかし無視しているのとも違い、客に神経を向け、かと云って圧迫した赴きも無い心地の良い配慮がそこには存在していた。 「町の雰囲気が変わったな」今度はアーリオが切り出した。 「ん?」 「昔はもっとピリピリしていなかったか、町全体。夜になったら物騒な格好をした奴らが彷徨いてたと思ったんだが、一人も出会さなかった。町の明かりだってこんなに灯ってなかったぜ」  アーリオがヴァインを離れる前は、日が落ちると甲冑を身に纏った者達が闊歩していた。それはこの町が未開の地に隣接していた為、『痕』の影響によって体躯を膨らませた獣が生活圏に迷い込むからだった。ただそれと同時にその『痕』の恩恵を受け、土地が肥沃で稀有な貴金属を採石していたヴァインの行政は、獣の駆逐に多額の報償金を出す事が出来た。  日中は成りを潜めた血の匂い漂う傭兵や賞金稼ぎが、日没を過ぎるとのそのそと起き出す。そして夜は賞金稼ぎの町と姿を変えるのだった。  アーリオの知っている頃なら、今の時間帯には、既に一攫千金を狙う者達が町に繰り出し景気を付けていてもおかしくはなかった。 「あぁ、そうか……、アンタは知らなくても当然か。領地改革だよ」
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