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「改革?ハッシャリオールが動いたのか?」アーリオは杯を宙で揺らしながら聞き返した。  ハッシャリオールは小国ながら、統率力の高い究竟な騎士団を有し、数だけの大国や力だけの軍事国家を凌ぐ国力を保持していた。それによりこのヴァインを含めた『未開の深林』周辺地域を領地とし、若き日のハッシャリオール王は最年少で『バイカウント』の称号を得た。勢いに乗ったハッシャリオール王は領地を拡げようと先代の十三代目モルドナ=シュミット家当主、アルフレッド・アレクサンド・モルドナ=シュミットと領地争いをしたが、大敗に喫した。結果として領地をモルドナ=シュミット家がハッシャリオールの領地を「監督する」という構図を作ってしまい、そしてそれは、上位称号の領主が下位称号の領主の合意の元、監督し統制しうる限り、その領地への侵略を禁ずる、という『領地制』のひな形となった。  しかしその後、ミュラー=ローゼンハイン家が、世界を疫病や飢饉で絶望に導いたと云われた『翡翠の悪女』を打ち取り、『パルテノン』は恩賞としてモルドナ=シュミット家からミュラー=ローゼンハイン家へのハッシャリオールの移譲を命令したのだった。 「へぇ、ミュラーにねぇ……」アーリオは盃を傾けた。  ハッシャリオールの兵力を対外的に向けていたモルドナ=シュミット家とは違い、ミュラー=ローゼンハイン家はそれを領内改革に傾けた。現在の当主である十代目当主グラディウス・クラウディオ・ミュラ=ローゼンハインにはある確信があったからだ。彼は未開の深林が生み出す『痕』の力は恩恵を齎す代りに、別の地域の土地を腐敗させていると考えていた。その過剰な偏りが、未開の深林の或る地域で起こっている絶え間ない内紛の要因に繋がっているとも思っていた。この未だにばらつきのある未開の深林周辺地域を纏め団結させれば、『痕』の恩恵を領内に循環させる事が出来、強大な力を生み出す可能性を秘めていると結論づけたのだ。
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