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「ミュラーが深林調査とかなんとかで、ハッシャリオールの領内に兵を出してんだ。だから自前で土地を守んなくてもやっていけるようになったのさ。この町を覆うように魔法も掛かってるから、魔獣も入って来れねえんだとよ。だから化け物もナシ!賞金もナシ!」 「へえ。そいつは困った。折角腕を磨いたのに、食い扶持が減っちゃあな」 「皮肉か?『ピュロマーネ』の一翼を担っていた男の言葉とは思えないな」 「今は無き幻の部隊さ。それに俺はよく飲むからな」アーリオは盃一気に傾けた。 「だったらコイツはどうだ?」主人は酒を継ぎ足しながら、新聞をアーリオに差し出した。そこには幾人もの町の長が共にリボンを切っている写真が載っていた。ミュラー=ローゼンハイン領になった最初の政策として太い街道が滞っていた周辺地域町に通され、夜を明かす為の宿舎も街道沿いに設置されるといった長期的な計画がようやく完成し、その開通式の模様を撮影したものだった。ただこの町だけは街道の一部が未開の地を抜けなければ行けない為に、雉子の最後に商人の連合会が腕に覚えのある者を広く募集していると最後に付け加えられていた。  それはこの町で懸賞が解除された傭兵にとっても、今まで獣に恐れていた流通を制限されていた商人にとっても大きな好機である事を意味していた。 「これで大金が動く。外でバカ騒ぎしてるほとんどは、手練のベテランと組んで金持ちになろうって商人さ。商人付きの傭兵になって道のお守りをしてやれば、むしろ儲かる何でもアリの時代が来たんだ。あんたにとっちゃ赤ん坊のお守より簡単なはずだろ?」 「そりぁ確かに」  アーリオが時勢を知る為にもう一度記事に目を通そうとしたその時、戸が勢い良く開いた。 「おう、今夜も来てやったぜ」 「アンタか。良い加減ドアの開け方くらい覚えてくれねぇかな」 「なんだ?俺に指図するのか?折角金を落としてやってんのによ」  主人は戸を乱暴に開けられ小言を言ったが、入って来た男は虫を払う様にそれを払いのけた。 「大体、この町の賞金が解除された事を知ったら来やしなかったぜ。クソみてえな制服着たクソ野郎共がよ」  アーリオが盃を空けると、主人は酒を注ぎたしながら「すまんな」と声を掛けた。 「何を謝ってんだ?まるで俺が邪魔見てえな言い方だな。俺ぁ伍侍の子孫だぜ?その気になりゃ、こんな店吹き飛ばせんだ」
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