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サクヤが三人を残りわずかな神通力で弾き飛ばす。
「無礼じゃ。女神たるこの吾の身に触れる事が許されるのは、つがいの背であるカノエのみであるぞ。
まったく…。もぅうんざりじゃ。
千秋はどうせ生身の人ではないか。吾とは違うのじゃ。早く人の世に帰ってはもらえぬかの?」
なら、どうしてカノエの竜笛を託す相手に彼を選んだ?
「一平など、もっとじゃ。せっかく野のワラシにしてやったと言うものを、神堕ちじゃと?
よく吾の前に顔を見せられたものじゃの?お前みたいなのを恥知らずと言うんじゃ」
なら、どうしてあんなに嬉しそうに彼に水干を…?
「ノノなど最悪じゃ。
お前はいつまでも親の脛をかじる困ったドラ息子じゃの?
お前の顔など、とっくの昔に見飽きておったのじゃ。どうせ吾が腹を痛めて産んだわけでもなし。いい加減、さっさとどうにかなってもらえんのかぇ?
あぁ。あぁ。もぅ…うんざりじゃったのよっ!!!」
なら、どうして今も自分を親と…?彼を息子と呼ぶのですか…?
涼しい顔で言い放つサクヤの全身に激痛が走る。
神は嘘を吐けない…のに、彼女の母としての最後の愛を…と。
舞いの奥義。
秘すれば華。
どんなに大きな悲しみが胸の中に吹き荒れていても…。
「……もぅ…お前たちは自分の力で生きていけるじゃろ。
いつまでも…吾に甘えるでない」
激痛が消えた。
その言葉には、嘘が無いから。
「早くしなくては、カノエの魂が散り果て黄泉の国に持っていかれる。
そうなっては、もう反魂さえしてやれなくなってしまう…。
時間が無いのじゃ…。
今ここで反魂をしてやれるのは、吾のみじゃ。今のアラシは反魂などという究極技をするほどの力は残っておらぬ。
ならば、吾がするまで。
どうせ…、カノエの居らぬこの世など…吾には地獄と何も変わらぬわ。
どちらかが闇の国に参らなくてはならぬのなら…、ならぬのなら…。やっぱり…もう少しカノエに先を見せてやりたいのじゃよ…。
ちょうど、お前たちの顔も見飽きてうんざりしとったしの?」
激痛。
残り少ない力と時間。
秘すれば華。美しさは…強さ。
「…………参るっっ!!!」
遂にサクヤが渾身の反魂の神楽舞いを始めた。
「らめぇぇぇぇ───っっ!!!
メッだのっっ!
メッだのぉぉぉぉぉ───っ!!!」
ノノの全身から、桜色の竜巻が噴き上がった。
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