神の華

30/30
1044人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
そんなノノが、一筋の涙を流しなから小さく笑って。 「いずれ散り逝く定めと知りながら…、まるで箱庭のネズミたち…。 その虚しさなど…、今更判っていながらの大競争…。 いつかは散るが定めなら…、この世はまるで華のよう…。 咲きませ。 どうか…咲きませ…! どうせいつかは散る定めなら…。今一時だけの夢だとしても…。それなら…だから尚のこと…! 華たちよ! どうか…この一夜の儚い夢に…思いの限り咲き誇れっっ!!!」 鳴り響く神の笛の音。 奇跡が起きる。 季節外れに、一斉に狂い咲きする桜の華々。 「あぁ…。あぁ…。 また…何ということじゃ…」 サクヤが思わず泣き伏す。 舞い散る、若桜の君の桜吹雪。 やがて、カノエが眼を開く。 「ん…?あれ…?何かの冗談だったのか…?」 そして周りを見渡し、最後に美しく笛を吹くノノを見詰めて。 「何か…いろいろ聞かなきゃなんねーみてーだけど…。 まぁ…さ?」 カノエが一度『んっ…んん~…!』と大きく背伸びをして。 「何か…もう良いや!なっ!?」 サクヤが泣きながら。 「カノエ…。すまぬ…。 吾が付いておきながら…。 すまぬ…。本当に…すまぬ…」 そんな妻にカノエはカラリと笑って軽やかに。 「良いよ。まだもう少し、子供を可愛がってやれるってこったろ? ま、そういう事なら…それで良いんじゃネ? しっかし…まさか…アイツ…、男の桜神になるのか…? 何か…反則技みてーじゃネ?」 「そうじゃの…。 吾も…たまげとるわ…。 それもそうじゃが…。 カノエ…?本当に…生き返ってくれたのじゃの…?」 サクヤがたまらずカノエの胸に顔を埋めるから、彼は彼女をガッシリとシッカリと抱き締めて。 「泣かせちまって…ゴメンな…? これからも…一緒に居ような…? ずっと…一緒に…居ような…?」 狂い咲きの桜咲く、夏の桜が舞い散る月夜の出来事。 「なぁ…?サクヤ…?」 「ん…?」 「そりゃ…俺のせいで…お前らに辛い思いをさせてんだけどさ…? なぁ…?俺たちって…そんなに不幸なのかな…?」 だから、サクヤはこっそり微笑んでから。 「さぁ…? それは…子らに聞かねばの…?」
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!