山の神 里の神

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すると、千秋は少し悲しそうな瞳になって語る。 「神は、人を助けない」 一平は、ますます混乱する。 「ただ、人は自らを救う」 「えと…?」 「眠っていた二十年、ノノくんの神通力はゆっくりでも着実に成長してきた。それを使わない訓練をする為に、二十年目のこの日々が許されるんだ。 月の力が満ちる満月の日に彼は目覚めて…月の力が消える新月の日まで野に遊ぶんだよ」 「それって…たった二週間!? 二十年に一度だけなのに…たったの二週間だけ!?」 「あぁ。二週間後の新月の日に、彼は再び深い眠りに入る」 「そ…そんな…。 せっかくの力も…使わないように…なんて…。なら、ノノくんは何の為に二十年も…?可哀想じゃないですか…」 「神は、人を助けない。 例えるなら、神様は電車の運転手さんみたいなものかな」 「………?」 「電車を時間通りに運行する役目が有るね? もし乗り遅れるお客さんが居ても、待ってくれたりしないよね? もっと大勢の人たちに迷惑がかかるからだよ。 でも、電車を停めるブレーキも運転手さんなら使える。 誰か一人を可哀想だからと特別に待ってあげる事も出来るよね? でも、それをしたら電車は遅れてしまって、後続の電車まで遅れて、結果的には皆が混乱してしまうよね? だから、駅員さんも運転手さんも、乗り遅れたお客さんを助けない。助けてあげるわけにはいかないんだ。 気の毒だと思っても、たとえブレーキが使えても。 使える力が有るなら、それで助けてあげられるのなら、使ってあげたいよね? 使いたいよ。 でも、それをしたら…パニックになってしまう。 神様も、同じさ。 助けてあげられるものなら、誰だって助けてやりたいさ。 神は、人を助けない。 何故なら、それが世界を救う方法なんだ。 そうやって、神が自然の営みを守っているから、人は自らを救う為の努力が出来るんだ。 ほら。助けない事が…救いに繋がるんだよ。 その場かぎりの同情で神様たちが神通力なんて恐ろしく大きな力を使いだしたら…、もう人には太刀打ちも抵抗も…自分の身を守る事さえ出来ないよ。 何より、努力しなくなる。 それは、人を滅ぼす。 だから、強い力を持つからこそ、それを使わないように訓練しないと神様にはなれないんだ」
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