第 1 章

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そう言うと庭へ下り、於一の手から木刀を取り上げると 「すぐに処分しなさい」 とそばにいた侍女に手渡した。 「身支度のお時間です。お部屋にお戻りください」 幾島はそう告げると、さっさとその場をあとにした。自分が大事にしていた木刀を取り上げられ於一は呆然となった。 「姫様、大丈夫でございますか?」 幾島から木刀を受け取った侍女が心配そうに声をかけた。 「ああ、大丈夫じゃ」 於一は力無く微笑み、そう答えると 「すまぬが、預かっておいてくれ」 といい支度部屋へと戻っていった。 姫君の身支度は侍女たちが整える。髪を梳かれ、化粧を施され、着物を着せられ、その合間をぬって朝餉を済ませる。すべてがされるがままであった。これが大名の姫君というものなのかと改めて、於一は思った。 (自分は島津家、一の姫。このような生活に早く慣れなくては・・・) すべての身支度を終えると、幾島による講義が行われる。和歌、茶道、華道、所作、言葉使いまで、多岐にわたった。食事の際には箸の上げ下ろしまで厳しく言われた。 「背を伸ばしなされ!」「足捌きが違いまする!」 奥座敷では、幾島の声が響き渡っていた。このような事が毎日、毎日続いた。最初は於一も意地を見せ、必死に食い下がっていったが、毎日、毎日自分がやっている事を厳しく否定されると、さすがの於一もやる気をなくし講義に身が入らなくなり、一月(ひとつき)目にはとうとう笑顔がなくなってしまった。いちにも会えなくなっていた。いちと一緒では、於一に甘え心がつくと幾島が遠ざけ、広川らから、侍女としての心構え、所作を日々教えを受けていた。 ある日、笑顔がなくなった於一を心配した広川が、いちと話す機会を幾島に掛け合い、作った。 「姫様、いちでございます。」 「ああ、いちか・・・」 「菓子をお持ちしました。食べましょう。」 襖を開け、いちが部屋に入ると腕のせにもたれかかり、うつむき加減で見るからに元気がなかった。 「元気がないですね・・・」 「見てのとおりじゃ・・・」 於一のこのような姿を初めて見た。いちは自分が心配していたことが現実になった。 「なあ、いち。私は何故ここにおるのであろう・・・」 「それは、殿のお役に立つため・・・」 「父上様のお役に立つため、私はこんな惨めな思いを毎日しないといけないのか?毎日、毎日、嫁入り修行のようなことばかり・・・」
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