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「殿より、いち殿は姫様付きの侍女として、奥向きに入られると聞いております。なれど、島津本家の侍女の一人、それに恥じぬよう侍女としての仕来りをきっちり、身につけていただきます。」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします。」
いちは深々と頭を下げた。
(とんでもない所へきたな・・・)
二人は顔を見合わせ、同じ思いを感じた。
侍女たちが退室すると二人は緊張の糸が切れ
「はーっ」
と大きなため息をついた。と同時に「グ~」と腹の虫まで鳴った。外はいつの間にか日暮れを迎えていた。
「倒れそうじゃな」
「まったくです」
そんな話をしていると、侍女が二人を呼びに来た。
「殿のお呼びでございます。」
という言葉に於一は
「それ、来たっ!」
と勢いよく立ちあがった。いちは自分も一緒に行ってよいかわからず、まごまごしていると、
「いち殿もご一緒に、姫様の右側についてお歩きください」
そう言われ、於一といちは斉彬の待つ部屋へ向かった。しかし、慣れぬ打掛の裾裁きがうまくいかない。そんな於一を後ろから歩いている侍女たちは含み笑いをしていた。きっと所詮分家の娘と馬鹿にされている。いちは悲しくもあり、憤りを感じた。
案内された客間では斉彬と清猷がすでに二人を待っていた。
「遅くなり、申し訳ございません。」
於一といちは深々と無礼を詫びた。
「気にするでない。初めてのことばかり故、疲れたであろう。今宵は四人で夕餉を楽しもうではないか」
斉彬がそういうと、四人分の膳が運ばれてきた。いちに対しても格別の扱いであった。
「どうだ、於一、うまいか」
「はい、おいしゅうございます。」
斉彬と清猷がいて、於一は少し心がほぐれたが、時間はあっという間に過ぎ、夕餉の膳は下げられた。
「於一、そなたには島津本家、一の姫としていろいろと仕来りなど習得してもらわねばならぬ。気苦労が重なると思うがこらえてくれ。」
「かしこまりました。」
「明日、城の者、一族の者たちには披露することになるが、そなたの名を『篤』と改める。今日から我らは親子じゃ。父と呼んでくれるな、お篤」
「はい、父上様」
於一は胸の高鳴りを感じた。名君と謳われる斉彬の娘になったのだ。天にも昇る気持ちになっていた。
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