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3、 女丈夫
明朝、早くから鶴丸城には城勤めの家臣、島津家一族が集められた。養女になった於一を披露するためである。
「ここにおる姫が島津本家、一の姫となった『篤』じゃ」
斉彬がそう宣言すると、於一に向かって一同が平伏し、この日から於一の『篤姫』としての生活が始まった。
披露が終わると、すぐに於一といちは斉彬の居室に呼ばれた。部屋ではすでに清猷と広川が待っていた。
「皆に紹介したいものがおる。」
斉彬がそう言うと、入口の襖が開けられ、一人の女性が入ってきた。その姿は悠然とし、その場にいる者を圧倒した。於一にいたっては思わず、
「わっ」
と驚きを口にしてしまった。
「幾島と申します」
そう一言挨拶すると深々と一礼した。人を圧倒する力強さの中にも気品が漂っており、美しい所作にいちは見惚れた。
「この者は、我が義姉、郁姫が近衛忠煕様に嫁いだおり、侍女として京に上り、義姉亡き後も近衛家に仕えておったが、此度(こたび)お篤の養育係として島津家に戻ってきてもらった。皆の者よろしく頼む。」
「養育係・・・」
於一が独り言を呟くと、
「独り言はお控えください!」
と幾島が間髪入れず注意した。
「上に立つものが独り言を申されてはなりませぬ。軽々しく言葉を発せれば、揚げ足を取られ、取り返しのつかないことになりかねませぬ。発するお言葉に責任をお持ちください!」
幾島に厳しく、皆の前で指摘され、於一は惨めな気持ちになった。
(これが殿のいう、打つ手なのか・・・)
清猷は天を見上げた。いちも幾島と於一がうまくやっていけるのか不安になった。
「まあ、ここでそう叱らずともよい」
斉彬は幾島をたしなめた。於一は「ふーっ」と腹の中で深呼吸をし心を鎮め、
「よろしく頼む」
幾島をじっと見つめ、一言告げると、いちと広川を連れ部屋を出た。
「先が思いやられる。」
幾島はため息をついた。
明朝、於一は実家から持ってきた愛用の木刀を持ち、庭に出て素振りを始めた。
(身体を動かすと気分が晴れる)
そう思いながら汗を流していた。
「何をしておいでですか!」
そんな於一を廊下から見つけ、咎めたのは幾島だった。
「身体を動かしてもいけぬのか」
於一は幾島に問いただした。
「女子(おなご)の武芸のたしなみは薙刀でございます。姫君の嫁入り道具に剣術など必要ありませぬ。」
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