第 1 章

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「いち、すまぬが於一のところへ持って行ってやってくれぬか。今日はたしか小松様のお屋敷へ、肝付様のところの尚五郎さんと行くと言っておった。そなたも行けば何か面白い話でも聞けるかもしれぬぞ」 「はい、行ってまいります!」 いちはパッと顔が華やぐと急いで駆け出して行った。 「いちも姫様のおかげでおてんばになりそうで・・・。困ったものです」 菊本は大きくため息をつくと屋敷の奥へ入って行った。お幸は「まあまあ」と 肩を叩き、菊本を慰めた。 そのころ、於一は喜入領主 肝付兼善の三男、尚五郎とある男に会うために小松清猷の屋敷に向かっていた。二人の顔なじみの下級藩士西郷吉之助と大久保一蔵も一緒だった。 「於一様、肝付様、おいたちはここでお待ちしておりもんす。お二人だけで話を聞いてきてくだされ。おいたちのようなもんがこの門をくぐることはできもはん。」 大きな体と大きな目の西郷は恐縮気味だ。大久保も同様である。 「しかし・・・。」 尚五郎が考えあぐねていると、二人の若者が向こうから近づいてきた。 「おお、今和泉の於一姫と肝付のとこの尚五郎か。なんじゃ、おまいたちゃ、こげん薄汚れた下んもんを連れて遊びまわっとるとか」 と因縁をつけてきた。二人の口からは酒の匂いがプンプンしている。 「おまいたちも女子(おなご)の子分にされてかわいそかのお~」 二人は西郷と大久保にも言いがかりをつけてきた。 「今和泉の姫様に無礼でございましょう!」 於一たちにやっと追いついたいちが強い口調で言い返した。 「ふん、姫とは名ばかり、男の格好をして城下をウロウロしたり、女子(おなご)のくせして学問したり、おかしな姫じゃろが~」 「くっくっくっ」 ともう一人も皮肉っぽく笑った。 「おのれっ、言わしておけばっ」 尚五郎の拳は怒りでプルプル震えているが、当の於一は黙って二人の言いがかりを聞いていた。とそこへ 「何かイライラするこつでもございもしたか」 後ろに控えていた西郷がすっと前に出た。 「言いがかりをつけるなら、おいに言うてください。いつでもお相手いたしもす。おいの名前は西郷吉之助でごわす。」 と言うと、「ガッ」と目を見開き、二人に睨みを効かせた。あまりの目力に二人は圧倒され、たじろいた。 「く~っ」 「くっそが~」 と言いながらも振り上げた拳の下ろし先を見失った二人は、今度は鞘から刀を抜き、振り上げた。
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