第 1 章

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「おのれ~」 一人が西郷に向かって刀を振り下ろそうとした瞬間、於一がいちの手からさっと木刀を抜き取り、西郷の背後から左側へ回り込むと一瞬で腰を入れ、刀を振り下ろした男の腕を下から上へ叩き上げた。 「バキッ」 と腕の骨が折れる音と同時に刀は宙を舞い地面へと突き刺さった。 「ぎえーっつ」 男は折れた腕をおさえ、土埃をあげながらのたうち回っている。もう一人の男は恐怖で足をガタガタ震わせていた。 「そちらのお方、今度は足でも砕いて差し上げようか」 於一が脅しをかけると、 「くそっ、おぼえていろ!」 とお決まりの文句を吐き捨てて逃げて行った。 「もう、西郷さん。あんな奴らに脅しをかけるなんて、危なっかしいなあ」 於一は振り向き苦笑いした。一瞬の出来事に皆、呆然としていた。もし、西郷が相手と刀を交え、怪我でもさせれば身分の違いにより、西郷だけがきっと罰せられる。それに正義感と忠誠心が厚い男なので自分が盾となり、他の者のために斬られるかもしれない。そう考えた於一は咄嗟の行動にでたのだった。 「於一様、また忠剛様に叱られまする。」 大久保が心配そうに声をかけた。 「なあに、あやつらは先君斉興様に心酔しとる奉行の次男坊、三男坊。出来が悪くて、弱いもんたちを困らせてばかりおるのです。悪者退治をしたのです。父上に叱られてもなんともありません。」 於一は土埃のついた袴をパンパンとはたきながら答えた。 「すごいですね。日本の女の人でもこんなに強い方がいるんだ」 清猷の屋敷の庭から外の様子を見守っていた総髪の若い男が、清猷と一緒に出てきた。 「ジョン万次郎・・・」 尚五郎は思わずつぶやいた。  嘉永4年1月、一人の男が久しぶりに日本の土を踏んだ。土佐沖の太平洋で嵐のため遭難し、アメリカの船に助けられ、約10年間をアメリカで過ごした。そのジョン万次郎が琉球に辿り着いた。報告をうけた斉彬により、薩摩の地へ呼ばれ、斉彬に謁見後、アメリカでの経験を家中に広めるため、清猷の屋敷に滞在しているのである。  皆は「はっと」二人に気づくと深々と頭を下げた。西郷と大久保、そしていちは地面に片膝をつき頭を下げた。 「こちらにジョン万次郎殿がおいでと聞き、お話を伺いとうて参りました。」 「なぜ、この者たちも来ておるのですか」 清猷は西郷と大久保を見て、於一と尚五郎に問うた。
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