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「お二人とはいつも、この藩、この国を良くするにはどうすれば良いか話をしています。皆でジョン万次郎様にお話を伺い、自分たちの糧にしたいと思い、参りました。」
尚五郎は必死でこたえた。
「何かを知りたい、学びたい。そう思う気持ちに身分の上下はないと思うのですが。」
すかさず、於一が助け船を出した。
「うむ。」
清猷は於一の考え方に心のなかではうなづいていた。
「今日は天気が良いので、海岸で話をしませんか?」
ジョン万次郎がそういうと、
「いいですね」
と於一が満面の笑みを浮かべた。
「私も久しぶりに海を見とうなりました。海岸であれば、あちらのお二方も心もとなく、話ができるでしょう。」
と万次郎は西郷と大久保に微笑みかけた。二人はその言葉に有難味を感じ、頭を下げた。
「しかし、大丈夫でしょうか?」
清猷は斉彬を良く思わない人間が万次郎に危害を加えないか心配であった。
「御心配にはおよびません。こんなに強い方々に囲まれてるのですから大丈夫です。」
万次郎は皆を海岸へと促し、5人はあとに続いた。皆を見送った清猷は屋敷の中に入っていった。
「お近、間もなく昼餉の時間だ。すまぬが皆に茶と握り飯を持って行ってやってくれぬか」
「かしこまりました」
妹のお近は快く引き受けた。清猷は縁側に座り、お近が出した茶をゆっくりと口に運んだ。
「何かを学ぶのに身分の上下はないか・・・。なかなか良いことを言う。殿の意に沿う姫はやはり於一殿だな」
と一人つぶやいた。
一方、海岸に出た一行は砂浜に通じる石階段に腰を下ろした。南国の初夏の潮風が心地よい。
「さて、何からお話しいたしましょう」
万次郎は於一たちに問うた。皆、それぞれ聞きたいことはたくさんある。
「アメリカではオランダ語は話さないんですよね」
口火を切ったのは尚五郎だった。
「そうです。アメリカでは英語というイギリスが使っている言葉を使います。」
「英語・・・。もし、今から語学をやりたいと思えば何が良いのでしょうか?」
「この国は今、オランダと通商をしております。それゆえオランダ語の習得は必要です。ただ今、アメリカ、イギリス、フランスの列強各国がアジア各国と通商を開こうとしております。おそらく日本にもなんらかの形でやってくるはず。その時、対等に渡り合うためにも国際用語になりつつある英語の習得が必要かと存じます。」
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