プロローグ 椿高校1年生6月

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「なんの、噂だって?」 あたしは疑いの眼差しを持ってクラスメートの女子に声をかけた。 すると、学級委員長である山内さんが、え、知らないの?と声をあげた。 「知らない」 「ナルミナはほんと、そういうのに興味ないよね」 と、これは別のクラスメイトの声。 ちなみに、ナルミナ、とは、成瀬美波の略だ。 「去年の冬にあった、県の一斉模擬試験。総合得点、2位だったのよ、長瀬先輩!」 「…………それ、マジ?」 「マジもマジ、大マジ」 山内さんが、当の本人差し置いて力説している。大マジの意味はいまいちわからないが、ほんとらしい。 あたしは自分の顔から血の気が引くのを感じた。 じゃあなんだ。県下一斉で2位だった人に、100点とってこいとか、お茶の子さいさいなことを言ってしまったってことか? 「で、どうなの?」 あたしたちの会話はどうでもいいのか、先輩が答えを急かす。 約束がなんのことかわからない山内さんたちが首をかしげている。 まずい。 約束が万一ここのメンバーにばれて噂が広まれば、停学、いや退学も免れない。 しつこいようだが、この学校は恋愛禁止なのだ。 「あ、えと、あたし用事あるの!みんなまた明日ね!」 言うと同時に、先輩の手を引っ張る。 右手に学生鞄、左手に先輩の手をつかまえて、あたしは颯爽のごとく教室を飛び出した。
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