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「あの、ですねー」
「うん」
急に声をかけたにも関わらず、驚く様子もなく、また、ゲームから顔をあげることもなく先輩が答える。
この人、さっきから、うん、ばかりだ。
「一応、ここ、学校なんですよねー」
「そうだね」
「ゲーム禁止なんですけど。
てか、恋愛も禁止なんですけど」
「ポケノンがさ、今日の12時32分、この場所にレアなモンスターが出るっていう計算が出てるんだよ」
いや、そんなこと知らないし。
恐る恐る音楽室の時計を見る。12時32分。なんだか頭痛がしてきた。
ポケノンとは、先輩がハマっているゲームだ。流行はあたしたちがまだ小さい頃だったけど、まさか今でもこの年齢でここまでハマってる人がいるなんて。
「恋愛はなー」
しばらくして、先輩が切り出した。
律儀に答えを返すのは先輩のいいところなのだろう、たぶん。
カチッという音がして、先輩がゲームの本体を畳んだ気配がした。
なるほど、32分を過ぎたら用はないわけだ。
レアなモンスターは出ましたか、と聞いてもいいけど、愚問な気がしてやめた。
「黙ってやればわかんないんだよ。ゲームと同じで、こっそりやるもんだ。
な、楽しいだろ?」
ぽん、とあたしの頭の上に手をおいて彼はスッと教室を出ていった。
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