椿高校 1年生 10月

7/35
前へ
/428ページ
次へ
「右手」 「右手?」 先輩が、あたしの右手を指して眉をひそめる。 なんのことを言ってるんだ、と右手を見て、再度、うわっ!と驚いた。 さっき、由真ちゃんのところで壁を殴ったせいで、拳が赤く腫れていた。 全然気づかなかったけれど。 どおりで派手な音がした、とひとり頷く。 が。 「いやいやいや、なんで知ってるんです!?」 あの場に先輩の姿はなかったはず。 てことは、見てたんだ。 聞き耳でもたてていたのだろう。 「見てた」 「どこから?」 「女がふたり由真に寄ってったところから」 最初じゃないか! というかあたしより早いじゃないか! 驚いて口をパクパクするあたしに、再度先輩が、うん、と言った。 「最初から見てたけどさー。 西原くんが、『俺がいく』って言うから任せてたんだよな。 そしたら、いつのまにか美波も居合わせててさ。美波のこと、とめようかと思ったんだけど」 「…………………」 「それより、美波の方が早かったわけ。ま、美波より西原くんが早かったから、間抜けな『のっ?』が聞けたけどな」 そこでクスクス笑って、のっ?ってなに?とあたしをからかってきた。
/428ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加