プロローグ 椿高校1年生6月

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「で、なんなんですか?ほんとに」 1階の教室から3階の音楽室まで、一気にかけ上がってからあたしは尋ねた。 幸いにも追っかけの気配はなかった。 クラスメートもさすがにそこまで暇ではないらしい。 ホッと息をついたあと、あたしは視線を音楽室の外から先輩へと移す。 先輩は日頃の運動不足でも祟ったのかゼイハァと息を切らしていた。 まったく情けない。 「その前に、美波、手…………痛いから」 「え?」 音楽室のこれまたど真ん中に座り込み彼が見せた自身の腕は、なるほど、確かに赤くなってしまっていた。 あたしは彼から自分の左手に視線を移す。軽くグーパーを何度かしてみた。 空手部に所属、左手は利き手。 そんなあたしが軽く握っただけで赤くなってしまうなんて。 情けない。 ………じゃなくて、力加減を考えなくちゃ。 だけどだからって今は謝る気なんかない。 あたしは悪いことはしてない。 そもそも教室のど真ん中で告白のようなことをするから、先輩が悪いのだ。
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