プロローグ 椿高校1年生6月

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先輩からの告白は初めてではない。 入学してまだ2ヶ月だというのに、初めてじゃないってなんだかおかしな話なのだけれど。 初めての告白は、まだ4月だったと思う。在学生の中で希望者は入学式の手伝いをするという伝統が、この学校にはあるのだとか。 そこであたしを見て、一目惚れしたのだと聞いた気がする。 だとしてもあたしは先輩のことを今でも少ししか知らない。 2年A組、優秀クラス。 学校一のモテ男。 校則違反ギリギリに染めた茶髪は、特殊なワックスでもかけたのかというほどさらさらだ。 178センチの長身。パッチリ二重の瞼、バリトンを利かした声。 制服は気崩すことなく正装。 ネクタイがきっちりと締められている。 あたしは、息を整えるためにへたりこんでいる彼を見て、肩を竦める。 確かに、カッコいいとは思う。 モテるのもわかる。 だけど。 もし、あたしが彼のネクタイならとても窮屈に違いない、と思った。 そう思わせるほどに、彼はとてもきちきちしているイメージがある。
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