「やがて開く華」の蕾

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「これは……」  それは、かつて先輩があたしにくれたもの。  銀色のテディベアのネックレス。  言葉を失ってただそれを見つめる先輩に、あたしはゆっくりと口を開いた。 「先輩はもしかすると、覚えてないかもしれないけど、これはあたしにとってすごく大事なものなんです。 あたし、何度も捨てようとしたのに……。これ、どうしても捨てられなかった」  本当に何度も捨てようと思った。  一度目は、先輩と別れた時。  二度目は、尊と付き合っていた時。  三回目は、中学校を卒業した時。  勇気を出してごみ箱放り投げては、決意が揺らいでまた拾った。  何度もそうしているうちに、銀色のテディベアの耳は少し禿げてしまった。 「取っておいてくれたんだね……」  先輩がぽつりとつぶやくように言った。
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