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「あたしと、友達になってくれませんか?」
先輩が顔を上げ、驚いたような、困ったような表情であたしを見つめた。
変なお願いだって分かってる。
おかしな子だって思ったかもしれない。
けど、あたしはそうしたいと思ったのだ。
今度はゆっくり、少しずつ充紀先輩に近付きたい。
決して近付けない憧れの存在と、精一杯背伸びしたあたしじゃなくて。
ただの森山充紀と、ただの汐崎紅花として、隣にいたい。
「駄目、ですか……?」
充紀先輩はゆっくりと微笑んだ。
“いいよ”
先輩の口がその形に動く。
それから、ちょっと恥ずかしそうに俯いた。
「俺さ、あの時の紅花ちゃんの顔が、どうしても忘れられなかった。紅花ちゃんが泣きそうなのを堪えて笑った顔が、ずっと頭から離れなかったんだよ」
少し垂れ気味の目があたしに向けられて、細められる。
「何でだろうね、今までそんな事、無かったのに……。だからこの前電車で紅花ちゃんの姿を見かけて、本当に嬉しかったんだ。
やっと、また会えた……」
先輩が右手をあたしに差し出した。
「よろしくね、紅花ちゃん」
あたしは自分の右手を伸ばし、そっと重ねる。
強く握り返された右手。
充紀先輩がまたあたしに笑ってみせた。
あ……。
急に、景色が明るくなった気がした。
あたしが立っているのは競技場の休憩所。
光は上の方についた横に細長い窓から少し入ってくるだけで、薄暗い。
なのに、あたしに見える風景はまるで……。
暗いトンネルの向こう側に、一面の花畑を見つけた時みたいな、晴れやかな気分。
きっとあたしの心の中に、一輪、花が咲いたんだ。
先輩の笑顔を見た瞬間、あたしは何故だかそんな事を思った。
先輩が笑いかけてくれるなら、あたし、もっともっと花を咲かせていける。
そんな気がするよ……。
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